行李こり)” の例文
僕のへやに置いてある荷物を始末したら——行李こりの中には衣類その他がすっかり這入はいっていますから、相当の金になるだろうと思うんです。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けふこのミュンヘンのに来て、しばし美術学校の『アトリエ』借らむとするも、行李こりの中、唯この一画藁いちがこう、これをおん身ら師友の間にはかりて、成しはてむと願ふのみ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
金松かねまつと云う奴がいて、其奴そいつこわれた碌でもねえ行李こりを持っていて、自分の物は犢鼻褌ふんどしでも古手拭でもみんな其んなけえ置くだ、或時おれが其の行李を棚からおろしてね、明けて見ると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
梅干うめぼし幾樽、沢庵たくあん幾樽、寝具類幾行李こり——種々な荷物が送られた。御直参氏たちは三河島の菜漬なづけがなければ困るという連中であるから、行くとすぐに一人ずつ一人ずつ落伍らくごして帰って来てしまった。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「しかし進物の十行李こりには、さすがに嬉しそうな顔をしたよ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三千代は次の部屋で箪笥たんすの環をかたかた鳴らしていた。そばに大きな行李こりが開けてあって、中から奇麗な長襦袢ながじゅばんそでが半分出かかっていた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まどもとなる小机に、いま行李こりより出したるふるき絵入新聞、つかひさしたるあぶらゑの錫筒すずづつ、粗末なる烟管キセルにまだ巻烟草まきタバコはしの残れるなど載せたるその片端に、巨勢はつらづえつきたり。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
三千代みちよつぎ部屋へやで簟笥のくわんをかたかた鳴らしてゐた。そばおほきな行李こりけてあつて、なかから奇麗きれい長繻絆ながじゆばんそで半分はんぶんかかつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
自分がへやへ帰って来た時、母はもう浴衣ゆかたを畳んではいなかった。けれども小さい行李こりの始末に余念なく手を動かしていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ことに行李こりくくるのは得意であった。自分が縄を十文字に掛け始めると、あによめはすぐ立って兄のいるへやの方に行った。自分は思わずその後姿を見送った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平岡は縁側で行李こりひもを解いていたが、代助を見て、笑いながら、少し手伝わないかと云った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「赤※坊の着物きものなの。こしらへた儘、つい、まだ、ほどかずにあつたのを、今行李こりそこたらつたから、してたんです」と云ひながら、附紐つけひもいて筒袖つゝそでを左右にひらいた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼はわざわざ戸棚とだなを開けて、行李こりの上に投げ出してあるセルのはかまを取り出した。彼はそれを穿くとき、腰板こしいたうしろに引きって、へやの中を歩き廻った。それから足袋たびいで、靴下にえた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きな行李こりは新橋迄預けてあるから心配はない。三四郎は手頃なズツクの革鞄かばんかさ丈持つて改札場を出た。あたまには高等学校の夏帽を被つてゐる。然し卒業したしるしに徽章丈はぎ取つて仕舞つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
平岡が、失敬だが鳥渡ちよつとつて呉れと云つたあひだに、代助は行李こり長繻絆ながじゆばんと、時々とき/″\行李こりなかちるほそい手とを見てゐた。ふすまけた儘る様子もなかつた。が三千代の顔はかげになつて見えなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)