かおる)” の例文
室内へ案内することをいろいろに言って望まれた家の人は、断わりようがなくて南の縁に付いた座敷へ席を作ってかおるは招じられた。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「隠れなき御匂ひぞ風に従ひて、ぬし知らぬかと驚く寝覚ねざめの家々ぞありける」と記されたかおる大将の、「扇ならで、これにても月は招きつべかりけり」
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
「それだそれだ。匀で思い出したが、ここの内に丁度お前のようなかおるという子がいたが、あれはどうした。」
里芋の芽と不動の目 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
南京ナンキン陥落をつげたその十二月であり、暦は廿二日だが——新劇運動の親、小山内かおる氏のなくなったのも、クリスマスの晩で、十年前のこの月廿五日のよいだった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かおるがおれば、お手伝いぐらいいたすんですけれど、あれもこの七月には戦地に参るそうですから……
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
このなつかしさに対しては、去年の夏からたがいに許し合っている水泳場近くの薄給はっきゅう会社員の息子むすこかおる少年との小鳥のような肉体のたわむれはおかしくて、おもい出すさえじを感ずる。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かおる大将だの、浮舟だのが此の世にあり得よう筈がない事もわかり過ぎる位わかって来た。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
後の主人公かおる大将の出生のために朱雀院すざくいんの御在院中の後宮のことが突然語り出され、帝の女三の宮内親王への御溺愛ごできあいによって、薫の宮を用意した小説の構成の巧みさは前者に越えている。
「京町の山本屋という店で、かおるという名の、きれいなおんなを、御存じでしょう」
「野中——かおるとでもしておくか」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
この話を聞いていて、高い見識を備えたというのでもないこうした人さえかおるのすぐれたところは見知っているのであると浮舟は思った。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
丁度その頃堀の家には親類の娘でかおるさんという人が世話になっていた。その薫さんが私の母贔屓ははびいきで、すべての事情を知っていて、そのときも母の荷物をもって一しょについて来てくれた。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
かおる女王にょおうのいずれもが劣らぬ妍麗けんれいさの備わったその一人と平淡な話ばかりしたままで別れて行くのを飽き足らぬここちもしたのであった。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
小宰相の部屋へやへ寄って、世間話などをするかおるに、その人は僧都の話を告げた。意外千万な、珍しい話を聞いて驚かぬはずはない。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
切実に寂しいひとり寝をする夜ごとにかおるは、風の音にも目のさめてこんなことが思われ、過去と未来を思い、この世を味気なくばかり思った。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
などとほほえんでお言いになり、かおるがいつからここへ伴って来たのかと、その時を聞き出そうとあそばすのを女は苦しがって
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ほかのことに思わせて宮は怨言えんげんらしておいでになるのを、中の君はただかおるのことでまじめに恨みを告げておいでになるものと思い込み
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるが浮舟をここへ隠して置いてあることを知り、だまして人につれ出させるようなことがあったのではあるまいかと、召使いに疑いをかけて
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるが幾度も歎息たんそくをもらしている時に、鶏もどちらかのほうで遠声ではあるが幾度も鳴いた。京のような気がふと薫にした。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるの中将もこの時御前にいて、自分も人生をいとわしく思いながらまだ仏勤めもたいしてようせずに、怠りがちなのは遺憾であると心の中で思い
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるとしてもこれほど悲しむふうはお見せすまいと自戒していたのであったが、こぼれ始めてはとどめがたい涙になった。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるからの手紙だけはあちらからもまじめに親切なことを多く書かれてくるのであったから、こちらからも冷淡なふうは見せず常に返事が出された。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるは山の延暦寺えんりゃくじに着いて、常のとおりに経巻と仏像の供養を営んだ。横川よかわの寺へは翌日行ったのであるが、僧都そうずは大将の親しい来駕らいがを喜んで迎えた。
源氏物語:56 夢の浮橋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
宮は苦手にがてとしておいでになる右大臣が来ずに、お親しみの深いかおるの宰相中将が京から来たのをかえってお喜びになり
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおる中納言、匂宮の若いお二人はすべての点で昔の盛りの御代みよの人に劣らないと思われる天才的な人たちで、熱心におやりになる音楽のほうで言えば
源氏物語:45 紅梅 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるの侍従はとう侍従とつれ立って院のお庭を歩いていたが、新女御の住居すまいに近い所の五葉ごようの木にふじが美しくかかって咲いているのを、水のそばの石に
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
などと言うころ、客は今下車するのであるらしく、前駆の人払いの声がやかましく立てられていたが、急にはかおるの姿がここへ現われては来なかった。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と言って、不安でこのままでは帰れぬふうを見せるために、女王の病室の御簾みすの前へ座が作られ、かおるはそこへ行った。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるの言うのを聞いて、確かなことを皆知っておしまいになったようである、この方もお気の毒であるし、故人もおかわいそうであると右近は思った。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるは新年になれば事が多くて、行こうとしても急には宇治へ出かけられまいと思って山荘の姫君がたをたずねてきた。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
こんなふうに言って、かおるには飽き足らぬ恨めしい心は見えるのであるが、聞いている者がいるのであっては、思うままのことを言いえようはずもない。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるの大将は恋人を信じてうことにあせりもせず、待ち遠に思うであろうと心苦しく思いやりながらも、行動の人目につきやすい大官になっている身では
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と言い、まじめな話をかおるはした。経巻や仏像の供養などもこの人はまた宇治で行なおうとしているらしい。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
身体からだふるわせて言う老女の様子に真剣味が見えて、老人はだれもよく泣くものであると知っているかおるであったが、こんなにまで悲しがるのが不思議に思われて
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
人に愛さるべく作られたような風采ふうさいのあるかおるであったから、かりそめの戯れを言いかけたにすぎない女からも皆好意を持たれて、やむなく情人関係になったような
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおるの家のほうから始終出て来る人があってそちらのこともこちらの様子も双方でよく知っていた。
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
前払さきばらいの声が聞こえ、品のよい男が門をはいって来るのを、家からながめて浮舟の姫君は、いつでも目だたぬふうにしてあの宇治の山荘へ来たかおるの幻影をさやかに見た。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
理由もなくこの時にかおるの面影が目に見えてきて、心のかれる思いがした。同じように美貌びぼうでおありになるとは宮を思ったが、こうした憧憬どうけいを持って思うことはできない。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
貴人は直覚でものを見ることが穎敏えいびんであるから、学問のある僧の知らぬことも体得しておいでになって、次第になじみの深くなるにしたがい、かおるの思慕の情は加わるばかりで
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
源中納言のほうからも前駆を多人数よこしてあった。だいたいのことだけは兵部卿の宮が手落ちなくお計りになったのであるが、こまごまとした入り用の物、費用などは皆かおるが贈ったのであった。
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かおる自身は山荘の人の京へ立つのが明日という日の早朝にたずねて来た。
源氏物語:50 早蕨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、昔から仏の教えを奉じることの深さをかおるは告げた。
源氏物語:56 夢の浮橋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
夕方になって源侍従のかおるがこの家へ来た。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)