葛藤かつとう)” の例文
愛に於ける一切の、葛藤かつとう紛紜ふんうん、失望、自殺、疾病しつぺい等あらゆる恐るべき熟字は皆婚姻のあるに因りて生ずる処の結果ならずや。
愛と婚姻 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あの事件はそつちのためには不愉快では無かつただらうが、そつちを或る葛藤かつとうの中に引き入れたのは気の毒だと云つてある。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
国香のせがれは将門を殺さうとしてゐたといふ事を認め、そして殺さぬを残念と思つたほどの葛藤かつとうが既に存在して居たと睨まねばならぬことになるのである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
空茶からちや鱈腹たらふく呑んで、無精煙草を輪に吹いて、安唐紙やすからかみの模樣を勘定し乍ら、解き切れなかつた幾つかの難事件を反芻はんすうし、人と人との愛慾の葛藤かつとうの恐ろしさに
かれ直截ちよくせつ生活せいくわつ葛藤かつとうはらつもりで、かへつて迂濶うくわつやまなかまよんだ愚物ぐぶつであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つまり人間のありきたりの心的葛藤かつとうや、因果關係の紛糾に、ピストルだの短刀だのと單純に含ませた古い型の探偵小説では、一面に科學知識の可成かなり深くなつてゐる私達には物足りない。
探偵小説の魅力 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
相互さうご權能けんのうえて領域りやうゐきをかとき其處そこにはかなら葛藤かつとうともなはれるはずでなければらぬ。若者わかものあひあつまればみな不平ふへいじやうかたうて、勝手かつて勘次かんじ邪魔じやまなこそつぱいものにしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もとより紛議ふんぎ葛藤かつとうおそるゝところでない、正理せいりわれにあるのだが、しか※里ばんり波濤はたうへだてたる絶島ぜつとうおいて、すで唯一ゆいいつ確證くわくしようたる日章旗につしようき徹去てつきよされたるのちは、われに十二ぶん道理どうりがあつても
これも当時の地方に於て綱紀のやうやゆるんだことを証拠立てるものであるが、それは武蔵権守興世王と、武蔵介経基と、足立郡司判官武芝とが葛藤かつとうを結んで解けぬことであつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)