菩提心ぼだいしん)” の例文
「……これも矢張やは菩提心ぼだいしんと云えば云えるであろう。……あの呉一郎の狂うた姿を見て、たまらなくなったからであろう……」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私はその網の燃え上る火を見まして「法界の衆生しゅじょう、他の生命を愛する菩提心ぼだいしんを起し殺生的悪具をことごとく燃尽やきつくすに至らんことをこいねがう」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すなわちえん優婆塞うばそくの像で、顔も姿も解らなかったが、なお崇厳の輪郭だけは、見る人の心を敬虔けいけんに導き、且つ菩提心ぼだいしんを起こさせるに足りた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
疾翔大力と申しあげるは、施身大菩薩せしんだいぼさつのことぢゃ。もと鳥の中から菩提心ぼだいしんを発して、発願ほつぐわんした大力の菩薩ぢゃ。疾翔とは早く飛ぶといふことぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
何も考えずに暖かく成長した若い女(男でも同じである)の起す菩提心ぼだいしんや宗教心は、皆此暗い影の奥から射して来るのだと余は固く信じて居るからである。
血みどろな合掌と、銀五郎が最期の声を新たに思いうかべる時——またかかる夜かれの菩提心ぼだいしんは、知らず知らずにも一節切ひとよぎりの一曲をその霊にむけさせる。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし女に菩提心ぼだいしんあらば一燈園に来させよ、との勧めでした。私も熟考してみるに、この方法が最も私の心にも適い、真理に即したる解決のごとく思われます。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
主人は宗教家とぞ聞えし、その菩提心ぼだいしんよりして市民に実際の純良なる牛乳を与えたしとの冀望きぼうを以て創立し、初は僅か車三台を以て配達するほどの小規模なりき。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼天駆がそういう風に菩提心ぼだいしんを起したことは、逸早いちはやく機関誌「ザ・プロシーデングス・オブ・ザ・インスチチュート・オブ・ニッポン・スッパ・エンド・オシコミ」
釈尊の菩提心ぼだいしん、ヨハネのロゴス、その他無数の名称はこの本能を意味すべく構出されたものであるかも知れない。然し私は自分の便宜の為めに仮りにそれを愛と名づける。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
空蝉うつせみなかすてヽおもへば黒染すみぞめそでいろかへるまでもなく、はなもなし紅葉もみぢもなし、たけにあまる黒髮くろかみきりはらへばとてれは菩提心ぼだいしん人前ひとまへづくりの後家ごけさまが處爲しよいぞかし
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
仏像が私にそれを迫ったとっていい。つまり私は菩提心ぼだいしんを誘発されてしまったわけだ。したがってこの本は、自分にとっては求信過程の一産物というようなかたちにもなっている。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
道庵の昂奮もそのいわれがないではないが、何をいうにも、この祭文語りは山伏に近い古風なもので、ことに語り物が、哀婉あいえんたる苅萱道心かるかやどうしんの一節と来ているのだから、多少の菩提心ぼだいしんをこそ起せ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
御承知かも知れませんが、日錚和尚にっそうおしょうと云う人は、もと深川ふかがわの左官だったのが、十九の年に足場から落ちて、一時正気しょうきを失ったのち、急に菩提心ぼだいしんを起したとか云う、でんぼう肌の畸人きじんだったのです。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
疾翔大力と申しあげるは、施身大菩薩せしんだいぼさつのことじゃ。もと鳥の中から菩提心ぼだいしんを発して、発願ほつがんした大力の菩薩じゃ。疾翔とは早く飛ぶということじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ものを壊すにしても、良心にとがめるといったような菩提心ぼだいしんを出さないで、こんな壊れ物を扱わせるから壊れるんじゃないの……ぐらいの太々ふてぶてしさでやってください。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
衆中八万四千衆生、皆発無かんぱつむ等々、阿耨多羅三藐あのくたらさんみゃく菩提心ぼだいしん。——南無大慈大悲観世音菩薩かんぜおんぼさつ——なにとぞ、ばばが一念をあわれみたまい、一日もはやく、武蔵を討たせたまえ。武蔵を討たせたまえ。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
無邪気であったこと……菩提心ぼだいしんとはこれを云うのであろうか……その児の清らかな澄み切った眼付きが、自分の眼の前にチラ付くのを、払っても払っても払い切れなくなったMは、その児が将来
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「今仰っしゃったように、余りに金の事や、俗気ぞくけから離れますと、菩提心ぼだいしんとやらに襲われまして、せっかく持前のあく気が、なくなり過ぎますんで。——それがなくなると、商人魂あきんどだましいが弱まりますよ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いったい、菩提心ぼだいしんというのはなんだろう」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふ……盗人ぬすっと菩提心ぼだいしん
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)