茅花つばな)” の例文
けれども、さして心をいためた趣のあるにもあらず、茅花つばな々々土筆つくつくし、摘草に草臥くたびれて、日南ひなたに憩っているものと、おおいなる違はない。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある日お磯は、牧場へ茅花つばなを摘みにゆきました。やはりいつものように右の手には御気に入りの人形が抱っこされていました。
博多人形 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
智子はややほおけた茅花つばなの穂を二三本手でなびけて、その上に大形の白ハンカチを敷いた。そして自分は傍のよもぎの若葉の密生した上へうずくまった。
明暗 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
菫はしぼみ、たんぽぽは風に飛散り、茅花つばなは白く穗になつて、土筆の叔母さんばかり勢ひよく延びる頃の事であつた。
貝殻追放:016 女人崇拝 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
子どもらはいつも野に出て、茅花つばなをたべ、いたどりをたべ、すいばをかじった。土のついたさつまをなまで食べた。みんな回虫かいちゅうがいるらしく、顔色がわるかった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
此茅野へ小さい時に女の連れと『茅花つばな』を抜きに来た事がある。その中に田宮の鶴子様も居つて熱心に抜いて居た。自分は抜いた三四十本の『茅花』を皆鶴子様に与へた。
呼ぶスハヤ尤物いうぶつ此中このうちに在るぞと三人鵜の目鷹の目見つけなば其所そこらんとする樣子なり我は元より冷然として先に進み道のかたへのすみれふきたう蒲公英たんぽゝ茅花つばななどこゝのこんの春あるを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
そのとき、耶馬台の軍はまばらに一列に横隊を造って、静々と屍を踏みながら進んで来た。彼らの連なった楯の上からは油をにじませた茅花つばな火口ほぐちが鋒尖につきささられて燃えていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
引きつれて下にかがみ、とも/\つばなこ/\と言ひつつ、茅花つばな抜くまねびをしてはてに鬼に向ひ、人さし指と大指とにて輪をつくり、その内よりのぞき見て、是なにと問へばほうしの玉といふと
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
せめてスカンポか茅花つばなでも無いかと思っても見当らず、茗荷みょうがぐらいは有りそうなものと思ってもそれも無し、山椒さんしょでも有ったらだけでもよいがと、くるしみながら四方あたり見廻みまわしても何も無かった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
芝の地下茎も、茅花つばなも、日当りのよい土手の斜面に自生した。
甘い野辺 (新字新仮名) / 浜本浩(著)
日の照りて茅花つばなそよめく浅茅原我等あぐらゐひやき酒のむ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
茅花つばな抜く浅茅あさぢが原のつぼすみれ
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
野に茅花つばな
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
すみれ茅花つばなの時分から、苗代、青田、豆の花、蜻蛉とんぼ、蛍、何でも田圃がすきで、殊に二百十日前後は、稲穂の波に、案山子かかしの船頭。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お磯は、そう歌いながら茅花つばなを摘んでいるうちに、いつか太陽がおちて、そのあたりが薄暗くなって来ました。
博多人形 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
野に茅花つばな
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
……時間を思っても、まだ小学校前らしいのが、手に、すかんぼも茅花つばなも持たないけれど、摘み草の夢の中を歩行あるくように、うっとりとした顔をしたのと、みちの角で行逢ゆきあった。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桃、栗、柿、大得意で、烏やとびは、むしゃむしゃと裂いてなますだし、蝸牛虫まいまいつぶろやなめくじは刺身に扱う。春は若草、なずな茅花つばな、つくつくしのお精進……かぶかじる。牛蒡ごぼう、人参は縦にくわえる。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)