自然おのづ)” の例文
丑松は仙太を背後うしろから抱〆だきしめて、誰が見ようと笑はうと其様そんなことに頓着なく、自然おのづ外部そとに表れる深い哀憐あはれみ情緒こゝろを寄せたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
くゞりしとか申程にいやしく見えしよしすれば貴公樣あなたさまなどは御なりは見惡ふいらせられても泥中でいちう蓮華はちすとやらで御人品は自然おのづからかはらと玉程に違ふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
申上まをしあげたて。……なれどもたゞ差置さしおいたばかりではさぎつばさひらかぬで、ひと一人ひとり重量おもみで、自然おのづからいでる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自然おのづと何処かに稜角かどあるは問はずと知れし胸の中、若しや源太が清吉に内〻含めて為せし歟と疑ひ居るに極つたり。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
自然おのづ外部そとに表れる苦悶の情は、頬の色の若々しさに交つて、一層その男らしい容貌おもばせ沈欝ちんうつにして見せたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
雲霧自然おのづと消え行けば、岩角の苔、樹の姿、ありしに変らでまなこに遮るものもなく、たゞ冬の日の暮れやすく彼方の峯にはやりて、梟の羽翥はばたきし初め、空やゝ暗くなりしばかりなり。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
『あツ、』とさけんで、背後うしろから飛蒐とびかゝつたが、一足ひとあしところとゞきさうにつても、うしてもおよばぬ……うしいそぐともなく、うごかない朧夜おぼろよ自然おのづからときうつるやうに悠々いう/\とのさばりく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あゝ、生徒の顔も見納め、教室も見納め、今は最後の稽古をする為にこゝに立つて居る、とう考へると、自然おのづと丑松は胸を踊らせて、熱心を顔に表して教へた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
平日ふだんならば南蛮和尚といへる諢名を呼びて戯談口きゝ合ふべき間なれど、本堂建立中朝夕顔を見しより自然おのづれし馴染みも今は薄くなりたる上、使僧らしう威儀をつくろひて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ふけ行くまゝに霜冴えて石床せきしやういよ/\冷やかに、万籟ばんらい死して落葉さへ動かねば、自然おのづしん魂魄たましひも氷るが如き心地して何とはなしに物凄まじく、尚御経を細〻と誦しつゞくるに
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
正しく論じたらば、惜福が必らずしも消極的ならず、分福が必らずしも積極的では有るまいが、自然おのづと惜福と分福とは相對的に消極積極の觀をなして居る。惜福は既に前に説いた如くである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
主人あるじが浮かねば女房も、何の罪なき頑要やんちやざかりの猪之まで自然おのづと浮き立たず、淋しき貧家のいとゞ淋しく、希望のぞみも無ければ快楽たのしみも一点あらで日を暮らし、暖味のない夢に物寂た夜を明かしけるが
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)