なまぐ)” の例文
すると、かなしいことにお鯉は永平寺の坊さんの、大黒だいこくになったというなまぐさいうわさを聞いた。おやおやと落胆してしまった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
波の如くに延びるよと見るに、君とわれはなまぐさき縄にて、断つべくもあらぬまでに纏わるる。中四尺を隔てて近寄るに力なく、離るるにすべなし。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まあさそうそう塩鰯を、軽蔑しちゃアいけねえよ。塩が辛くてなまぐせえ! な、人間もそうなけりゃアいけねえ」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なまぐさい血汐に眼鼻めはなたれて、思わず押えた手をゆるめると、敵の亡骸むくろはがっくりと倒れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
此處を死場と定めたるなれば厭やとて更に何方いづかたに行くべき、身は疳癪に筋骨つまつてか人よりは一寸法師一寸法師とそしらるゝも口惜しきに、吉や手前は親の日になまぐさをやつたであらう
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その時に、お銀様の鼻に触れたのはぷんとしてなまぐさい、いやないやな臭いであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのなまぐさい鼻風びふう砂礫されきを飛ばし、怒りは金瞳きんどうに燃え、第三の跳躍をみせるやいな、武松のからだを、まッ赤な口と、四ツ脚の爪の下に、引ッ裂かんとしたが、これまた武松にかわされると
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一陣のなまぐさい風と一緒に、飛沫しぶきをあげて八五郎が飛び込んで來たのです。
其の座敷をそっと覗いて見ると、客の坊主がおすみの部屋着を着て、坊主頭に鉢巻をして柱に倚掛よっかゝって大胡坐おおあぐらをかいて、前にあるのアみんなまぐさ物、鯛の浜焼なぞを取寄せて、それに軍鶏しゃもなんぞくらって
この著者がどうかするとなまぐさ坊主と云われる所以ゆえんかもしれない。
徒然草の鑑賞 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
なまぐさい笑に眼は暗ながらキラ/\光つて居た。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
虫が多いので蚊帳かや始終しじゅう釣っていた。ある時その蚊帳をかついで谷川へ下りて、何とかいう川魚をすくって帰ったら、その晩から蚊帳が急になまぐさくなって困った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それも尋常の煙りではなく、墨のような色をした煙りでありなまぐささを感じさせる煙りであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
身は疳癪かんしやくに筋骨つまつてか人よりは一寸法師ぼし一寸法師とそしらるるも口惜くちをしきに、吉や手前てめへは親の日になまぐさをやつたであらう、ざまを見ろ廻りの廻りの小仏と朋輩の鼻垂れに仕事の上のあだを返されて
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
下界万丈げかいばんじょう鬼火おにびに、なまぐさき青燐せいりんを筆の穂に吹いて、会釈えしゃくもなくえがいだせる文字は、白髪しらがをたわしにして洗っても容易たやすくは消えぬ。笑ったが最後、男はこの笑を引き戻すわけには行くまい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
疳癪かんしやく筋骨すぢぼねつまつてかひとよりは一寸法師いつすんぼし一寸法師いつすんぼしそしらるゝも口惜くちをしきに、きち手前てめへおやなまぐさをやつたであらう、ざまをまはりのまはりの小佛こぼとけ朋輩ほうばい鼻垂はなたれに仕事しごとうへあだかへされて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
津田はそのたびにガーゼで拭き取られなければならない赤い血潮の色を、想像の眼でなまぐさそうに眺めた。じっと寝かされている彼の神経はじっとしているのが苦になるほど緊張して来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)