)” の例文
今度会津へ帰ってからも、そうした気もちを、胸一杯にもっていたが、慎九郎の噂を聞くと、今までの元気が一度にった如く思った。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
第一腹がって蒲団も帽子も上衣うわぎもないのだ。今度棉入れを売ってしまうと、褌子ズボンは残っているが、こればかりは脱ぐわけにはかない。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
僕はしかたがないからなるべく跡まで待っていて、残った下駄を穿いたところが、歯のななめに踏みらされた、随分歩きにくい下駄であった。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして立ち上つて忙しげに、踵のつた靴を引き摩つて戸の外へ出た。間もなく帰つて来た時、パシエンカは二つになる男の子を抱いてゐた。
巻絹はち縫うて衣裳にすれどもらず、衣服に充満みちけるが、後にその末を見ければ延びざりけり、鍋は兵糧をくに、少しの間に煮えしとなり。
嫉妬しつとが彼を捉へた、彼を刺したのである。しかしその刺㦸は健康によいものであつた。らす憂鬱の牙から彼を離して、休息させるものであつた。
お友達の家へ寄ったと仰有おっしゃる時、蟇口や紙入を検めて見ますと、屹度五六円から十円ぐらいっていますわ。
髪の毛 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
頬は、肺病患者によくある病的紅潮を呈し、そして鼻の両側に出来た深いくぼみは、あたかも止め度ない涙のために、そこのところだけったかと思わせるのであった。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
霊肉の資本もとでを払って、多大な犠牲を敢えてして、肉をらし、心を労して生活してる人はない。私は彼らに作品を提供するまえに、ただちに生活を提供せよと要請したい。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
僕はまず立派りっぱ軍艦ぐんかんの絵を書くそれから水車のけしきも書く。けれども早くってしまうとこまるなあ、こう考えたときでした鉛筆がにわかにばいばかりの長さにびてしまいました。
みじかい木ぺん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
日本のお寺の鐘音がかくも美しいのは、我々のように内側にぶら下る重い金属製の鐘舌で叩かず、外側から、吊しかけた木製の棒の柔かく打ちらされた一端で打つからである。
中日は村総出そうでの草苅り路普請みちぶしんの日とする。右左からほしいままに公道をおかした雑草や雑木の枝を、一同らした鎌で遠慮会釈えしゃくもなく切払う。人よく道をひろむを、文義もんぎ通りやるのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
別の虫は何年もかゝつて樫やポプラや松やその他いろ/\の大木のしんを咬みらす。
その前屈みのからだつき、じっと一点に凝らした眸、蒼白い汗ばんだ顔、落ちくぼんだこめかみ、噛みらした爪、スリッパの踵の方が垂れ落ちて、靴下の不細工な繕いの跡を見せているあたりまで
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
丁度昔のやうに、己は波にゆらいでゐるゴンドラの舟を離れて、水に洗はれてつた、君が館の三段の石級を踏んだ。丁度昔のやうに、己が石級の上から君の名を呼ぶと、君はすぐに返事をした。
復讐 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
彼は固より英才を詩文の中にらすことをいさぎよしとせざりき。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
今でもおしみながら使いらしているかも知れぬ。6585
苅る柴はわずかでも、汲む潮はいささかでも、人手をらすのは損でございます。わたくしがいいように計らってやりましょう
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼はやっぱり肚がっていた。彼は何か想っていながら想い出すことが出来なかった。たちまち何かきまりがついたような風で、のそりのそりと大跨に歩き出した。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「半々にしても急に註文がれば変に思われますわ。何だって又二俵なんて取ったんでしょうね!」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
短気の石山さんが、どんな久さんを慳貪けんどんに叱りつける。「車の心棒しんぼうかねだが、鉄だァて使つかるからナ、おらァ段々かせげなくなるのも無理はねえや」と、小男こおとこながら小気味よく稼ぐたつ爺さんがこぼす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あの時の憎の力や愛の力を、らさずに返して下さい。
そして青い橄欖かんらんの森が見えない天の川の向うにさめざめと光りながらだんだんうしろの方へ行ってしまいそこから流れて来るあやしい楽器の音ももう汽車のひびきや風の音にすりらされてずうっとかすかになりました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
何も食わずに、腹がったとも思わずにいたのである。暮六くれむつが鳴ると、神主が出て「残りの番号の方は明朝おいでなさい」
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「病気にならなくても電車の故障か何かで遅刻すれば宜い。一人でもればそれ丈け助かる」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あんな腹のった男に洒落気があるだろうか。
収穫は次第につて、家が貧しくなつて、跡には母と私とが殆ど無財産の寡婦くわふ孤児として残つた。ただに寡婦孤児だといふのみではない。私共は刑余けいよの人の妻子である。日蔭ものである。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
人数もぽつ/\つて、本町堺筋ほんまちさかひすぢでは十三四人になつてしまふ。そのうち瓦町かはらまちと淡路町との間で鉄砲を打ち合ふのを見て、やう/\堺筋さかひすぢを北へ、衝突のあつた処に駆け付けたのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
子供を二人しか生まないことにして、そろそろ人口のって来るフランスなんぞは、娼妓の型の優勝を示しているのに外ならない。要するにこのたちの女は antisocialeアンチソシアル です。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
歯の斜にらされた古下駄を穿いて、ぶらりとこの怪物ばけもの屋敷を出た。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
梅田のかせて行く大筒おほづゝを、坂本が見付けた時、平八郎はまだ淡路町二丁目の往来の四辻に近い処に立ち止まつてゐた。同勢は見る/\つて、大筒おほづゝの車を人足にんそくにも事をくやうになつて来る。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)