美姫びき)” の例文
客は酌人しゃくにん美姫びきへ手をふった。赤ら顔は酒のせいばかりではない。肥っていてよく光る皮膚にボツボツと黒い脂肪がにじみ出している。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あらゆる暴虐ぼうぎゃくいた身を宮殿をしのぐような六波羅ろくはらの邸宅の黄金こがねの床に横たえて、美姫びきを集めて宴楽えんらくにふけっております。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
それから、加賀百万石を禄高ろくだかがしらの三百諸侯、つづいて美姫びき千名と注された、いずれ劣らぬ美形たちのお局、腰元、お女中の一群でありました。
周の穆王ぼくおうが美少年慈童じどうの、紅玉を薄紙で包んだような、玲瓏れいろうとした容貌を眺めた時、後室三千の美姫びき麗人れいじんが、あくたのように見えたということである。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ウム、何かと云ふと、直ぐ元老が呼び出されるので、てもかなはん——只だ美姫びきさいはひに我労を慰するに足るものありぢや、ハヽヽヽヽ、なア浜子」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
深窓の美姫びき紅閨こうけい艶姐えんそ綾羅錦繍りょうらきんしゅうたもとを揃えて、一種異様の勧工場、六六館の婦人慈善会は冬枯に時ならぬ梅桜桃李ばいおうとうりの花を咲かせて、暗香あんこう堂に馥郁ふくいくたり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また、事実、手にも入れていた。かれはサルタンの後宮にも比すべき数十人の恋人があった。電話一本で、いつでもはせ参ずる美姫びきの群れを所有していた。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
池田屋と云って分らなければ、のお嬢さんの住んで居る店だと云ったら、多分知らない者はあるまい。己の信ずる所によると、内のお嬢さんは、銀座街頭がいとう第一の美姫びきなのだから。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は美姫びきなり、この世の美くしさにあらず、天国の美くしさなり、死にも笑ひ、生にも笑ふ事を得る美姫なれども、相争ひ相傷くる者に遭ひては、万斛ばんこくの紅涙を惜しまざる者なり。
最後の勝利者は誰ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
例の白蓮女史失踪しっそう事件があり、彼女の生活の豪華であったことが、知らぬものもないというほどであり、和歌集『踏絵ふみえ』を出してから、その物語りめく美姫びきの情炎に、世人は魅せられていたからだ。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あした美姫びきの肩の柳絮りゅうじょを払い、ゆうべに佳酒かしゅ瑠璃杯るりはいに盛って管絃に酔う耳や眼をもっては、忠臣の諫言は余りにもただ苦い気がした。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さようじゃ。城中第一の美姫びき、まだつぼみのままじゃが、所望ならば江戸へのみやげにつかわしてもよいぞ」
いや関東の女こそ、肌も荒ければ気性も荒く、申して見ますれば癖の多い刎馬——そこへ行きますと木曽美人、これは昔から有名で、巴御前、山吹御前、ああいう美姫びきも出て居ります。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
後宮の美姫びき三千とはいわない。けれど、一笑すれば百媚ひゃくび生ず、といえるぐらいな美人は何人かある。侍女老女まで入れると、その数も桃園の桃より多い程だ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後宮もかずあるうえになお、二条家の美姫びき栄子を女御にょごに入れたのもごく近ごろのことである。
なまめかしい美姫びきと愛くるしい女童めわらべが、董卓にかしずいて、玉盤に洗顔の温水をたたえて捧げていたが、秘書の李儒りじゅがはいって来たのを見ると、目礼して、遠い化粧部屋へ退がって行った。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠くは木曾信濃しなのの群山、広くは東方にわたる武蔵野の原、帯と曳く多摩川の長流、あるいは清麗な美姫びき蚊帳かやにかくれたような夜の富士の見られないこともありますまいが、月江は勿論
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容貌のまずい醜男ぶおとこにも、世の美姫びきたちが、いかにび、いかにひざまずいて、愛を求め争うかを、示してやる。——と思って、むしろそれは、自分を励ますむちとして、いつも心に帯びているのだ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを王宮といえば、後宮三千の美姫びき、金銀財宝の山を想像させるような、朝威を形づくったから、何遍だってほろぶのだ。当然痩土そうど民の眼からは、常にそこは大きな物質の対照にされるだろう。
人間山水図巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
美姫びき玉杯をつらねて臨座をお待ちすると云いやった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「非常な美姫びきをおれになったそうですな」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)