縁端えんばた)” の例文
庭を明るくしようと、侍女たちが総出で雨戸を繰り開け、部屋ごとに、縁端えんばた近く燭台を立てつらねて、いつの間にか、真昼のようだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
土蔵脇どぞうわきの小部屋にも、後の縁端えんばたの左右の部屋にも、ここには、常に七、八名の侍が刀の鯉口こいぐちに心をとめて坐っているのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
細君は下女げじょをよんで、自分のひよりげたをこまげたにとりかえさして、縁端えんばたこしをかけた。そうしてげたのあとをしてくれ、と下女にめいじた。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
けれども患者が縁端えんばたへ出て互を見透みとおす不都合を避けるため、わざと二部屋毎に開き戸を設けて御互の関とした。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見ると、茶店の縁端えんばたには、誰にいだともないお茶が一つ置いてあつた。咽喉のどの渇いてゐた伝右衛門がそれを飲まうとすると、茶店のばあさんは慌てて止めた。
巡「別にうちもございませんから、お寺様のお台所だいどこかして戴いたり寺中じちゅう観音かんおんさまのお堂のお縁端えんばたへ寐たりいたして、何処と云ってさだまった家はありません」
「御前、よろしゅうお取りなしをお願い申す」と、行綱は縁端えんばたまでいざり出て言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人で縁端えんばたに坐っていると、女中が蒲団を持って来たり、朝茶や梅干うめぼしを運んだりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
蚊遣かやりけむり古井戸ふるゐどのあたりをむる、ともいへ縁端えんばた罷來まかりきて、地切ぢぎり強煙草つよたばこかす植木屋うゑきやは、としひさしくもりめりとて、初冬はつふゆにもなれば、汽車きしやおととゞろ絶間たえまこがらしきやむトタン
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
縁端えんばたにずらり並んだ数十の裸形らぎょうは、その一人が低く歌い出すと、他が高らかに和して、鬱勃うつぼつたる力を見せる革命歌が、大きな波動を描いてでついた朝の空気を裂きつつ、高くねつつ
(新字新仮名) / 徳永直(著)
もう日が暮れかけて家の中は薄暗かった、千三はわらじをぬいで縁端えんばたに座った。先生はだまって七輪しちりんを取りだし、それに粉炭をくべてなべをかけ、七、八本のいもをそのままほうりこんだ。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
平次は縁端えんばたに立って、凜々りんりんと朝の空気の中に響かせます。
脇坂山城守は、縁端えんばた近く脇息きょうそくをすすめて、客に対座している。山城守は、相撲すもう取りのように肥った人だ。動くと、脇息が重みに耐えてギシと鳴る。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けれども患者が縁端えんばたへ出て互を見透みとほす不都合を避けるため、わざと二部屋毎に開き戸を設けて御互の關とした。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
汚ないかかと草履ぞうりにのせて、飄々ひょうひょうと裏庭から帰ってゆくのである。内蔵助は見送りに立ったまま縁端えんばたに背を見せていたが、その背に何かあらい人声を遠く感じて振り顧った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある日の暮れ方、滄洲がいつものやうに、縁端えんばたで髯をしごいていい気持になつてゐると、そこへ恰幅かつぷくのいいお爺さんが訪ねて来た。つひぞ見知らぬ顔だが、その髯を見ると、流石の滄洲も吃驚びつくりした。
何事かと驚いて、人々が出てみると、その教順房と共に托鉢に出た生信房が、どうしたのか、両手で顔をおさえたまま、友の脇に抱えられて、よろよろと、縁端えんばたへ来て、俯伏うつぶした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)