素気すげ)” の例文
旧字:素氣
不本意ながら撫子をそのうちお許しすると御約束した以上はそう素気すげなくばかりも出来ないので、ともかくもお通しさせる事にした。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一歩、家庭を出れば、もう生きて帰るか帰らぬか、心は主君といくさにのみあって、妻には、余りにも素気すげなくさえ見える良人だった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それというのは、今朝けさ、ちょっと面白くないことがあったからだ。恋のいざござ、さもなければ、素気すげない便りでもあったからだ。
素気すげなきカーフの背を鈍色にびいろに緑に上下うえしたに区切って、双方に文字だけをちりばめたのがある。ざら目の紙に、ひんよく朱の書名を配置したとびらも見える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その日は私はわざと素気すげない返事をした。これが平素なら、私は子供と一緒になって、なんとか言ってみるところだ。それほど実は私も画が好きだ。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「まア、そう素気すげないことを言うな。お前はひと交際づきあいがわるくて困る。いったい、この象がどうしたんだと」
父は素気すげなく、断りかねたのであらう、それかと云つて、書画を鑑定すると云つたやうな、静かな穏かな気持は、今の場合、少しも残つてはゐないのだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
何でも私が人伝ひとづてうけたまわりました所では、初めはいくら若殿様の方で御熱心でも、御姫様はかえって誰よりも、素気すげなく御もてなしになったとか申す事でございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分に素気すげない源三郎に、この恩を売っておいて、うんと言わせようのこんたんかもしれない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
恐らくぼくがそういう明日子の態度に素気すげなく反撥していたからであろうとぼくは思った。
ひとりすまう (新字新仮名) / 織田作之助(著)
下の室の窓から季節外れの淡紅とき色の穿いた十七八の娘が首を出して居たので「詩人はられるか」と問ふと「知りません、門番コンシエルジユにお聞きなさい」と甚だ素気すげない返事をする。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そうして、書いては破り、書いては破りしたが、結局彼女が書いた文句は、あまりに男の心をそそり過ぎるか、あるいは素気すげなくあり過ぎるかで、どうも思ったように書けなかった。
一たん買切った以上は、列車は自分の専用であると素気すげなく刎ねつけたのである。
そうして月給がなくなって困る/\とこぼしながらぶらぶらしていた。地方の中学にかなりに好い口があって世話しようとした先輩があったが、田舎は厭だからと素気すげなく断ってしまった。
まじょりか皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
えくぼせないのはまだしも、まるで別人べつじんのようにせかせかと、さきいそいでの素気すげない素振そぶりに、一どう流石さすがにおせんのまえへ、大手おおでをひろげる勇気ゆうきもないらしく、ただくちだけを達者たっしゃうごかして
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
偶々たまたま夜半に至り道子が便所に降りて来たのを擁して未練がましく、不義を続けん事を強要したのであったが、今は全く心変りした道子は之を素気すげなくはねつけたため、大寺は此処に殺意を起し
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
「やだきゃ、やめとけよ」と女主人はさえぎって素気すげなくいった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
白雲から素気すげなくいわれて、お角は急に興醒きょうざめ顔になり
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「非常に疲労してゐます」わたしは素気すげなく答へた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
けれど、先の女は、日傘の下に姿をすぼめて、いかにも素気すげなく聞き流して行ってしまった。お米様ならあんなことをするいわれがない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父は素気すげなく、断りかねたのであろう、それかとって、書画を鑑定すると云ったような、静かな穏かな気持は、今の場合、少しも残ってはいないのだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いつも私の相手になるのをお避けになるような素気すげない御返事しかおよこしにならなかった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
素気すげなき答え方。女は少しき込んで
待て、そう素気すげなく、追い返してよろしいものかのう。公儀の御法によって処置あるは、当然、上役人方のなさる事、いずれおさしずもあろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父が、素気すげなく拒絶する。相手が父を侮辱するやうな言葉を放つ。いら/\し切つて居る父が激怒する。恐ろしい格闘が起る。父が、秘蔵の貞宗の刀を持ち出して来る。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「母がお親しい身寄りのお方じゃ。よも、素気すげのうは遊ばすまい。まいちど、門の戸をたたいて訪れて見やい」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父が、素気すげなく拒絶する。相手が父を侮辱するような言葉を放つ。いら/\し切っている父が激怒する。恐ろしい格闘が起る。父が、秘蔵の貞宗さだむねの刀を持ち出して来る。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
おすすめできましょう。ただ素気すげないお断りでもうけると、呉妹君のお名にもさわることですから、それで実はそっと、ご意向をうかがってみるわけですが
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少しばかり、くつの上からかゆいところを掻く気もするが、千鳥ヶ浜の時から一別以来、まんざら素気すげなく別れたものでもなかろう、何か変った世間話でも聞かしてくれねえか
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お察しなされて下さいませ……素気すげないことをいいきれぬ、弱い客商売の娘でございます」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ひどく素気すげねえな。じゃあ飯をいてくれ。飯のさいぐらいあるだろう」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
改まったお米の言葉も、急に素気すげなく取り澄ましてきた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……そ、そうです。お察しのとおりです。何ぞ、母の身についてご存知なればお聞かせ下さい。兄円済へもよそながら、書状にて、問い合せてはみましたが——出家の身、世事何事もわきまえぬ。とのみ、素気すげないご返事を
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)