眼鼻立めはなだち)” の例文
そうするとこれを聞いたこなたのきたな衣服なりの少年は、その眼鼻立めはなだちの悪く無い割には無愛想ぶあいそう薄淋うすさみしい顔に、いささか冷笑あざわらうようなわらいを現わした。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
橘は、野の明るさの中では一際ひときわまばゆいような眼鼻立めはなだちを見せていて、これが自分の娘であろうかと思われる位、見なれぬ美しさを表わしていた。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
眼鼻立めはなだちが又ステキなもので、汽船会社か、ビール会社のポスターきが発見したら二三遍ぐらいトンボ返りを打つだろう。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
弁慶の小助が引合せてくれたのは、二十五六の頑丈がんじょうな男で、色も黒く、眼鼻立めはなだちも大きく、その上横肥りで、武骨ぶこつで、まったく女子供に好かれるたちの男ではありません。
その赤ん坊はまだ眼鼻立めはなだちさえ判明はっきりしていなかった。頭には何時まで待ってもほとんど毛らしい毛が生えて来なかった。公平な眼から見ると、どうしても一個の怪物であった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
アルビオンの温和の氣候がつくつたものゝ中でも嘗てない美しい眼鼻立めはなだち、そのしめつた風と水氣すゐきを含んだ空が生み蔽うたものゝ中でも嘗てないきよらかな薔薇と、百合花の色が
そしてどちらかとへば面長おもながで、眼鼻立めはなだちのよくととのった、上品じょうひん面差おもざしほうでございます。
二ツ三ツこえ中脊ちうぜい中肉ちうにくにしていろしろ眼鼻立めはなだちそろひし美人ながら髮の毛の少しうすきは商賣上しやうばいあがりの者とども本甲ほんかふ櫛笄くしかうがひさしぎんかんざしに付たる珊瑚珠等さんごじゆとういづれも金目の物なり衣類は藍微塵あゐみぢん結城ゆふき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
色の白い、細面ほそおもての、左のに白い曇りのあるやうな、しかし大体に眼鼻立めはなだちの整つた、どちらかといへば美しい方の容貌ようぼうの持主で、紡績飛白ぼうせきがすりのやうな綿衣わたいれを着て紅いメレンスの帯を締めてゐました。
髪の色も眼鼻立めはなだちも甲板に立っている人は御互にあざやかな顔を見合せるほど船は近くなった。その時は全く美しかった。と思うと、船は今までよりも倍以上の速力をして刹那せつなに近寄り始めた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは私の變則な眼鼻立めはなだちを、彼の端正な古典型な型にめようとする程に、また私の變化に富む緑色の眼に、彼の眼の海のやうな藍色と莊重な光を與へようとすると同樣、不可能なことであつた。
と夜具をりにかかる女房にょうぼうは、身幹せいの少し高過ぎると、眼のまわりの薄黒うすぐろく顔の色一体にえぬとは難なれど、面長おもながにて眼鼻立めはなだちあしからず、つくり立てなばいきに見ゆべき三十前のまんざらでなき女なり。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
柴野は肩の張った色の黒い人であったが、眼鼻立めはなだちからいうとむしろ立派な部類に属すべき男に違なかった。御縫さんはまたすらりとした恰好かっこうい女で、顔は面長おもながの色白という出来であった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代助のちゝには一人ひとりあにがあつた。直記なほきと云つて、ちゝとはたつた一つ違ひの年上としうへだが、ちゝよりは小柄こがらなうへに、顔付かほつき眼鼻立めはなだちが非常にてゐたものだから、知らない人には往々双子ふたごと間違へられた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この若い細君がまだ娘盛むすめざかりの五六年ぜんに、自分はすでにその声も眼鼻立めはなだちも知っていたのではあるが、それほど親しく言葉をわす機会もなかったので、こうして岡田夫人として改まって会って見ると
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)