真正面まっしょうめん)” の例文
旧字:眞正面
と、また途方もない声をして、階子段はしごだん一杯に、おおきなな男が、ふんどし真正面まっしょうめんあらわれる。続いて、足早にきざんで下りたのは、政治狂の黒い猿股さるまたです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここに立てば、ひるは東の真正面まっしょうめん富士ふじ銀影ぎんえい裾野すその樹海じゅかいがひと目にながめられ、西には信濃しなのの山々、北には甲斐かい盆地ぼんち笛吹川ふえふきがわのうねり、村、町、城下じょうか地点ちてんまでかぞえられる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……と思う間もなく、真正面まっしょうめんに横たわる松原の緑の波の中から、真黒な汽鑵車が、狂気のように白い汽笛を吹き立てつつ、全速力で飛び出して来た。機関手が女の姿を発見したに違いないのだ。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鼠のつばをぐったりとしながら、我慢に、吾妻橋の方も、本願寺の方も見返らないで、ここをあてに来たように、素直まっすぐに広小路を切って、仁王門を真正面まっしょうめん
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その真正面まっしょうめんから私は爆発するように怒鳴り付けた。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、はじめて、お時の顔を真正面まっしょうめんに見つめた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不精で剃刀かみそりを当てないから、むじゃむじゃとして黒い。胡麻塩頭ごましおあたまで、眉の迫った渋色の真正面まっしょうめんを出したのは、苦虫と渾名あだな古物こぶつ、但し人のおとこである。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
はしへかけた手を手帳に控えて、麦畠むぎばたけ真正面まっしょうめん。話をわきへずらそうと、青天白日せいてんはくじつに身構えつつ
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地鳴じなりごうとして、ぱっと一条ひとすじほのおを吐くと、峰の松が、さっとその中に映って、三丈ばかりの真黒まっくろつらが出た、真正面まっしょうめんへ、はた、と留まったように見えて、ふっと尾が消える。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「驚いては不可いけません。天満の青物市です。……それ、真正面まっしょうめんに、御鳥居を御覧なさい。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青月代あおさかやきが、例の色身いろみに白い、ふっくりした童顔わらわがお真正面まっしょうめんに舞台に出て、猫が耳をでる……トいった風で、手を挙げて、見物を制しながら、おでんと書いた角行燈をひょいと廻して
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真正面まっしょうめんに、凹字形おうじけいおおきな建ものが、真白まっしろな大軍艦のように朦朧もうろうとしてあらわれました。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
硝子がらす一重ひとえすぐ鼻のさきに、一羽可愛かわいいのが真正面まっしょうめんに、ぼかんとまって残っている。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
英吉は眼をみはって、急いでその名刺と共に、両手を衣兜かくしへ突込んだが、斜めに腰を掉るよと見れば、ちょこちょこ歩行あるきに、ぐるりと地図を背負しょって、お妙の真正面まっしょうめんへ立って、も一つ肩を揉んで
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
樹の間からいて出たような例の姿を、通りがかりに一見し、みまもり瞻り、つい一足歩行あるいた、……その機会はずみに、くだんの桃の木に隠れたので、今でも真正面まっしょうめんへちょっと戻れば、立処たちどころにまた消えせよう。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いそへ出ると、砂を穿って小さく囲って、そこいらの燃料もえくさ焚附たきつける。バケツへ汐汲しおくみという振事があって、一件ものをうでるんだが、波の上へうっすりと煙がなびくと、富士を真正面まっしょうめんに、奥方もちっと参る。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
真正面まっしょうめんに内を透かして、格子戸に目を押附おッつける。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)