直接ぢか)” の例文
垢でベタ/\になつてゐるシヤツをコールテン地の服の下に着てゐた石田や齋藤は、直接ぢかに膚へ寒さを感じた。皮膚全體が痛んできた。
一九二八年三月十五日 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
私が直接ぢかに聞いたことでは無いのですけれど——又、私に面と向つて、まさかに其様そんなことが言へもしますまいが——といふのは
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
武一は、たらたらと血潮がしたゝり落ちるネープを懐中ふところの中に乗せると、素肌の胸に直接ぢかに当てゝ、彼女の体温を見守つてゐたゞけだつた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
只だ貴嬢の御口から直接ぢかに断念せよとおつしやつて下ださるならば、私は其を以て善知識の引導と嬉しく拝聴致します、不肖ながら帝国軍人です
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
やさしいこゑ時々とき/″\くのであるし、から直接ぢかに、つかひのようの、うけわたしもするほどなので、御馳走ごちそうまへたゞあづけだと、肝膽かんたんしぼつてもだえてた。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
文学は直接ぢかに思想を取扱ふものだけに、財産として自分のうちの土蔵にしまつておく事が出来ないばかりか、どうかするとそれをもてあそんでゐる者の手をきずつけるからである。
なんだか、へだて或物あるものてつして、直接ぢかわたしせつしてやうとする様子やうすが、歴々あり/\素振そぶりえる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
此子このこ笑顏ゑがほのやうに直接ぢかに、眼前まのあたり、かけあしとゞめたり、くるこゝろしづめたはありませぬ、此子このこなん小豆枕あづきまくらをして、兩手りやうてかたのそばへ投出なげだして寢入ねいつてとき其顏そのかほといふものは
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私の心に時々浮かんでくる想像——一生の終りに臨んで必ず感じるであらう・自分の一生の時の短かさ果敢なさの感じ(本當に肉體的な、その感覺)を直接ぢかに想像して見る癖が、私にはある——が
かめれおん日記 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
又滝へ直接ぢかにかゝれぬものは、寺の傍の民家に頼んで其水を汲んで湯を立てゝ貰つて浴する者もあるが、不思議に長病が治つたり、ことに医者に分らぬ正体の不明な病気などは治るといふことであつて
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
左様さう言つたやうなものでせうよ。尤も、私が直接ぢかに突留めたといふ訳でも無いのですが、種々いろ/\なことをあつめて考へて見ますと——ふふ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ドアー越しに、ピシリ/\と平手でなぐりつける音や、大きな身體がどつかへ投げられたやうな、肉が直接ぢかにぶち當る變に鈍い、音が、はつきり聞えてきた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
その思ひから解放されるだけでも助かると思つたが、チップの分配など見ると、それも何だか浅猿あさましくて、貞操の取引きが、露骨な直接ぢか交渉で行はれるのも、感じがよくなかつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
たゞし信用しんようがないから直接ぢかでは不可いけないのである。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その厚味のある肉體からだの、動きを直接ぢかに、自分の身體に源吉が感じた。源吉は、女を、今度は何の雜作もなく抱きあげると、そこから、畑に續いてゐる暗い小道へ出た。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
豐田の姉さんは性來多病で——多病な位ですから怜悧りこうな性質の婦人だとひとから言はれて居ました——起きたり臥たりしてるといふ方でしたから、直接ぢかに私の面倒を見て呉れたのは主にお婆さんでした。
だから何時でも馬小屋の匂ひが家に直接ぢかに入つてきた。夏など、それが熟れて、ムン/\した。馬小屋の大きな蠅が、澤山かたまつて飛んで來た。——馬が時々ひくゝいなゝいた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
彼には渡の氣持が直接ぢかに胸にくる氣がした。
一九二八年三月十五日 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)