ちろ)” の例文
「醜なかないじゃないの。あたしあんたが好きよ。穏和おとなしいんだもん。義公みたいになまっちろい、それでいて威張っている奴なんか大嫌さ」
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
見さだめてから、悠々とあらわれてきたのがいる……兵科はなんだったんだ、そんななまちろい顔でいられるというのは
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さつきちよいと其のなまちろい顏を出したかと思ふと、もうそれぎりで隱れてしまふとは、揃ひも揃つた横着者め。さあ、さあ、早く出て働け、働け。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
あの生つちろいのが又、恐ろしい男で、お駒の外にもお鐵にも手を出し、二人を妾同樣にして居たが、親の右京は人間が甘くて伜の言ひなり放題だから
息子の幸吉は、三十近い、色のなまちろ優男やさおとこである。父親おやじ命令いいつけを取り次いで、大勢の下女下男に雑用の下知を下しながら仔猫のようにび廻っていた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「……ソウチタラネ……アノお人形のおひいチャマのお枕元に、大きい、ちろい菊の花が置いてあったのよ」
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「てめえ、うちのやつに頼まれて、今朝、何処へ駕をやったんだ。あの、色のなまちろ武士さんぴんを乗せてよ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弁解いいわけしたって通らねえよ。聞けば高島の城下(今の上諏訪町)から、多四郎とかいうなまちろい男が、お前を張りに来るそうだが、これ、気を付けねえといけねえぞ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と謂ツて學士は、何も謹嚴に構へて、所故ことさらひとに白い齒を見せぬといふつもりでは無いらしい。一體がえぬたちなのだ。顏はあをちろい方で、鼻は尋常だが、少しである。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「サ、書いたらそれでいい。お前のなまちろつらなんか見ていたくもねえんだ。帰れ帰れ早く」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
その絵の先生というのがしゃくにさわるじゃないか、ぬけぬけと二階に納まって、女共にちやほやされながら、脂下やにさがっている、色のなまちろい奴、胸が悪くならあ——とがんりきは
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つらも生ッちろいし、芸も出来て、ちったあ売れるからと大目に見て、我ままをさしておきゃあ附け上って、何だと、畜生。もう一度いって見ろ、言わなきゃあ言わしてやろうか
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なまちろつらしやがって、やさしいばかりが能じゃないぞッ。さ、抜けッ、抜かぬかッ」
毛織ものを肌へ着けたためしのない岡本は、毛だらけな腕を組んで、これもおつきあいだと云った風に、みんなの見ている方角へ視線を向けた。そこでは色のなまちろい変な男が柳の下をうろうろしていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
全く良い男には相違ありませんが、自負心が強大で、なまちろくて、平次が見ると、虫唾が走りそうでなりません。
「二十三四の、色のなまちろい、華奢きゃしゃな奴です。生まれは上方かみがたで、以前は湯島の茶屋にいたとか云うことですよ」
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
肩肘はった浪人者や、色の生っちろい若侍のすがたが、チラホラするのは、みんなこの、たった一つの萩乃直筆のおひねりを手に入れようという連中なので。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
葉子と、あのキザな、生っちろい義公とがまるで新婚気取りで汽車にゆられて行ったのか、と思うと、眼の眩むような不快に、ドキドキと鼓動が昂まって来た。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
全く見なれない月代さかやきのならずものめいた、色のなまちろい奴! その色の生っ白い小粋こいきがった方が認めたのは、やっぱり案外な若い男の侍でしたから、双方とも一時いっとき全く当てが外れて
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
たかが生ッちろせた野郎、鬼神おにがみではあるめえ。一思いにひねつぶしてくりょう。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あの、郁次郎っていう、色のなまちろいやつよ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全く良い男には相違ありませんが、自負心が強大で、なまちろくて、平次が見ると、蟲唾むしづが走りさうでなりません。
池田 なに、あのなまちろい税所輩が、生意気千万にも、絶世の美人お加世どのを妻にしたりするから、かようなことになるのだ。いや、いい気味というものだ。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
前のはなまちろい腕でしたが、今度のは色の黒い、頑丈な腕です。前のは若い奴でしたが、今度のはどうしても三十以上、四十ぐらいの奴じゃあねえかと思われます。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
女子をうれしがらせるほか能のない、なまちろい青二才とばかり思い込んでおったのが、あの、俺に髪を取られた顔を上げた時の、豪快な笑い声はどうだ! また
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あのなまちろいのが、裏から来て、私の見る前で呼出しの合図なんかしていましたよ、どうせ私は寝たっきりだから、情事いろごととは縁のない世界に住んでいると思ったのでしょう。
徳という野郎で、徳三郎か徳兵衛か知りませんが、まだ二十二三のなまちろい奴です。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
黒門町の壁辰の娘お妙に恋をして、思いの通らぬところから、甲良屋敷の脇坂山城守に訴人そにんをしたが、人ちがいということになって面目玉を踏み潰したなまちろい若旦那だ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あの文三郎というなまちろい手代は、まだ家の中を嗅ぎ廻っていますよ」
大根畑の專次とか言ひましたね、あのなまちろいのが、裏から來て、私の見る前で呼出しの合圖なんかしてゐましたよ。どうせ私は片輪者かたわものだから、情事いろごととは縁のない世界に住んでゐると思つたのでせう。
八五郎はその生つちろ頬桁ほゝげたを一つくらはせました。
なまちろつらしやがつて、太てえ野郎で」