産土うぶすな)” の例文
るに見兼みかねてわたくし産土うぶすな神様かみさまに、氏子うじこ一人ひとりんな事情ことになってりますから、うぞしかるべく……と、おねがいしてやりました。
私はその前から植物が好きで、わが家の裏手にある産土うぶすな神社のある山に登ってよく植物を採ったり、見たりしていたことを憶えている。
「新兵衛の奴もういけなくなったんだな。」と思いながらやって来ると、村の中央にある産土うぶすなやしろもけそけそと寂しくなっている。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
後に思いあわせれば、これこそ、産土うぶすなの導きか、尽きせぬ宿縁か、それとも天が不言のうち、彼の人生の名残を尽させたものだろうか。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠くから通ずる本通りが二つあれば、その二筋はそこで十文字に横ぎり合い、そうでなければ村の産土うぶすなやしろまいる路が、そこから入り込んでいる。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なにいやがるんでえ。このでこぼこめがッ、おひざもとの産土うぶすなさまが年に一度のお祭りをするっていうんじゃねえか。村の鎮守さまたあわけが違うぞ。足を
石上神宮が又曲者で、これもその近いころに征服された豪族の氏神の如くであり、大倭神社なるものも強力だった国ツ神、亡びた豪族の産土うぶすな神の如くである。
私の村はこの広大な裾野の東南の端の方に、一は熊野社を一は大鷲社を氏神とする二氏族が、赤城明神を産土うぶすな神と仰いで、安住の居を占めた猫の額程の土地である。
山と村 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
さきの家老相馬志津之助そうましづのすけ伝役もりやく桑原萩之進くわばらはぎのしん、医者菊川露斎きくかわろさいの三人がつきそい、矢田北口やたきたぐちというところにある産土うぶすなさまへ御参詣になりましたが、お神楽の太鼓におおどろきになったものか
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二十一日のあかつきになつても、大風雨はみさうな気色けしきもない。平八郎父子ふしと瀬田とは、渡辺の死骸しがいあとに残して、産土うぶすなやしろを出た。土地の百姓が死骸を見出してうつたへたのは、二十二日の事であつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
産土うぶすなの印旛の歌よおのづから荻吹く風のさやぎしこもれり
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
産土うぶすなの祭は暮れぬ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
産土うぶすなの神にさかりて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
これからわしもうすところをきいて、十ぶん修行しゅぎょうまねばならぬ。わし産土うぶすなかみからつかわされたそち指導者しどうしゃである、ともうしきかされた。
「いや十年ぶりで来て見ると、村のようすもだいぶ変わったようだね。この産土うぶすなの松は何年ごろ切ってしまったのだい、いやもうどうも。」
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
たとえいかなる臥薪嘗胆がしんしょうたんの苦難をしのぶとも、八幡大菩薩、産土うぶすなの神も照覧あれ、臣等の一命に代えても、かならず官兵衛様の身を救い出してみせる
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一つは、村で産土うぶすなとも、また氏神ともいうお社がきゅうに大きくなってきて、これをお祭り申す人員が増加し、なかまがいくぶんか雑駁ざっぱくになったことである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なかにはぼうっとなった女の子も出るといった騒ぎで、それにしては産土うぶすなさまもとんだ氏子をおこしらえになったものですが、しかし本人のむっつり右門は、いうまでもなくもう看板どおりです。
やう/\産土うぶすなやしろを見付けてけ込んでゐると、暫く物を案じてゐた渡辺が、突然もう此先きは歩けさうにないから、先生の手足纏てあしまとひにならぬやうにすると云つて、手早く脇差わきざしを抜いて腹に突き立てた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
産土うぶすなよこの山河をかくばかりただにし見ずて我恋ひにけり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
イヤしかしそなたの質問とい大分だいぶんわし領分外りょうぶんがい事柄ことがらわたってた。産土うぶすなのことなら、わしよりもそなたの指導役しどうやくほうくわしいであろう。
美しい詩のような産土うぶすなが、その新道のために汚され、おびやかされて見る影もなくなっているではないか。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
流水は、正成の産土うぶすなの地、水分みくまりを象徴しており、半花の菊をかべた図は、天皇軍をあらわしている。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村の名の鬼沢と産土うぶすなの社の名の鬼ノ宮とは果して今の口碑の結果であるか、はた原因であるかを決しかねるが後々までも村に怪力の人が輩出したといい、或いはまた大人が鎮守ちんじゅを約諾して
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
産土うぶすなの神も照覧しょうらんあれ願文がんもんの誓いはきっとつらぬいてみせよう。——ここにただ尊氏をさえ滅ぼしてしまえばだ。道誉一人の存否などは問題でない。どうにでもなる。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
村にただ一つある産土うぶすなの神の御名さえ知らず、ただお宮といい明神みょうじんさんといってすませ、その他の神々でも山で祭るから山の神、泉のほとりに祭ればカワの神またはオスズ様、正月に祭る神を正月様
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ただそれしか思わせない余燼よじんのけむりを描いていた。そして新たな“時の人”新田義貞の名が、焦土鎌倉を産土うぶすなとして、はや次代の人心に、すぐ大きくうつりはじめている——。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)