洒脱しゃだつ)” の例文
奇人にはちがいありませんが、洒脱しゃだつ飄逸ひょういつなところのない今様いまよう仙人ゆえ、讃美するまとはずれて、妙にぐれてしまったのだと思います。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
洒脱しゃだつな応待で女中をからかい、龍海さんと按吉にさかんに飲ませて、自分は人につがれなければ強いて飲むということがなかった。
勉強記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
江戸ッ子風の洒脱しゃだつらしく見えて実は根ッから洒脱でなかった。硯友社という小さな王国に立籠たてこもって容易に人を寄せ付けなかった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それがあまり唐突とうとつだったので、技師はちょいと驚いたが、相手の少佐が軍人に似合わない、洒脱しゃだつな人間だと云う事は日頃からよく心得ている。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこでは宿の主人のまことに洒脱しゃだつな夫婦喧嘩を聞いた。その次の日は、千曲川の流れに沿う戸倉の村をぼつぼつと西へ向かって歩いたのである。
酒徒漂泊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
狩野派、土佐派、何々流式の線や色の主張も、飄逸ひょういつも、洒脱しゃだつも、雄渾も、枯淡も棄て、唯一気に生命本源へ突貫して行く芸術になってしまった。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
洒脱しゃだつで、のんきで、人あたりがよくて、めったに物にこだわらない彼なのであるが、今度は例になく、時平のしたことが腹が立ってならなかった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この室内とこの人間との雰囲気のかもす感じからは、東京の下町というものが一方洒脱しゃだつでありながら一方ローカルなものを持っているのを受取らせます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もしくは洒脱しゃだつな心持だとかいったようなものが現れていると言えば言えないことはありませんが、しかしそれは句の陰に潜んだまったくの余情であって
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
俳句というものを全く知らず、いわんや枯淡とか、洒脱しゃだつとか、風流とかいう特殊な俳句心境を全く理解しない人。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
大越おおごえから通う老訓導は、酒でものむと洒脱しゃだつな口ぶりで、そこから近いその遊廓ゆうかくの話をして聞かせることがある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
洒脱しゃだつてらっているのさ、田舎者だと思ってばかにしてね、それで自分が恥をかいているとは気がつかない」
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その折の旅の法印が、今も相変らず、一杖一笠いちじょういちりゅうの姿で洒脱しゃだつに眼の前で笑っている。安居院の聖覚なのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふうむ、洒脱しゃだつな親父だね。すると榊原君がアメリカまで神学専攻に出掛けたのもその夏帽子の影響だね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
笑いの哲学とは、流石さすがに軽妙洒脱しゃだつなベルグソンの着想だ。こうでなくては哲学は意味をなさぬ。ここを忘れて人間性を云云うんぬんしたところで、——しかし、おかしい。
あべこべに洒脱しゃだつをよそおい謹厳をとりつくろう虚偽と偽善との行いのように自分ながら疑われて来た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
南北朝以来戦乱永く相つぎ人心諸行無常しょぎょうむじょうを観ずる事従つて深かりしがその厭世えんせい思想は漸次時代の修養を経てまづ洒脱しゃだつとなりついで滑稽諧謔に慰安を求めんとするに至れり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
法水もちょっと面喰めんくらったらしかったが、すぐに洒脱しゃだつな調子に戻って
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その機敏さ、洒脱しゃだつさはさながら軽業師かるわざしのごとく見物人をわした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
豪放洒脱しゃだつな官界の逸人高橋自恃庵が作った放縦自由な空気はたちまち一掃されて吏臭紛々たる官場と化してしまった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
もとよりその円頂黒衣の人は洒脱しゃだつな気さくな人であったが、こともなげにその解決をつけてしまった。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
軒挑灯のきちょうちんを連ねし仲之町の茶屋もその洒脱しゃだつなる筆致のもとにはおのずから品川板橋いたばし等の光景と選ぶ所なし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大体に於いてあの人はああ云う風な洒脱しゃだつな紳士型であるけれども、あれで案外気分屋で、時にっては機嫌きげんの悪いこともあること、子爵家にはあの人の腹違いの兄に当る
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あんな洒脱しゃだつな女はありませんよ。あれと暮して居ると、本当に巴里と暮しているようですよ。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ぜんをはこぶ侍たちはみんな眼を泣きらしていた、それでいくらか洒脱しゃだつをじまんにする伊右衛門は、給仕に坐ろうとする若侍の一人をしいてさがらせ、自分で酌をしながら呑みはじめた。
日本婦道記:松の花 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
はッと思って見ると、血がだらだらと暑い夕日にいろどられて、その兵士はガックリ前にのめった。胸に弾丸があたったのだ。その兵士は善い男だった。快活で、洒脱しゃだつで、何ごとにも気が置けなかった。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
椿岳の画の豪放洒脱しゃだつにして伝統の画法を無視した偶像破壊は明治の初期の沈滞萎靡いびした画界の珍とする処だが
いかに洒脱しゃだつなる幇間ほうかんといへども徹頭徹尾扇子せんすかしらを叩いてのみ日を送り得べきものにあらず。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だが、今まで見つけて来た男というのは主に下町の男たちで、何やらにちゃ/\したものと洒脱しゃだつのものと入れ混っている不得要領な感じがしました。青年かと思えば隠居のようでもある。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いかに洒脱しゃだつなる幇間ほうかんといへども徹頭徹尾扇子せんすかしらたたいてのみ日を送り得べきものにあらず。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
二葉亭を何といったらかろう。小説家型というものをあながち青瓢箪的のヒョロヒョロ男と限らないでも二葉亭は小説家型ではなかった。文人風の洒脱しゃだつな風流通人つうじん気取きどり嫌味いやみ肌合はだあいもなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
格安でモダーンで、そして洒脱しゃだつでなければいけない。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)