法被はつぴ)” の例文
法被はつぴてらとも棺桶くわんをけいた半反はんだん白木綿しろもめんをとつて挾箱はさんばこいれた。やが棺桶くわんをけ荒繩あらなはでさげてあかつちそこみつけられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたくしは其時揃ひの法被はつぴをきた馬丁の一人が、わたくしの家の生垣の裾に茂つてゐた笹の葉を抜取つて馬にはませてゐたのと
冬の夜がたり (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
言霊ことだまさちはふ日本語では、「大工」といつて、朝から晩から金鎚を叩いて暮してゐる、紺の法被はつぴに鉢巻をした男の事である。
さうして下男げなんには、菱形ひしがたの四かくへ『』の合印あひじるしのいた法被はつぴせてくれた。兩掛りやうがけの一ぱうには藥箱くすりばこをさめ、の一ぱうには土産物みやげものはひつてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私は下足番として、浅黄の染抜の法被はつぴの上に白い前垂をかけて、入口の隅に小さな脚立きやたつに腰掛けて客を待つて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
大審院だいしんゐんの控所はなかなかの混雑である。中老、壮年、年少、各階級の弁護士が十七、八人、青木が所謂「神仏混同の法被はつぴをつけて、馬の毛のかんむりをのつけて」
畜生道 (新字旧仮名) / 平出修(著)
湯棺がをはると、今度は剃髪ていはつが始まつた。法被はつぴを着た葬儀屋の男が、剃刀かみそりを手にして、頭の髪をそりはじめた。髪は危篤におちいる前に兄の命令で短く刈られてあつた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
お前は法被はつぴを馬にかぶせて、その下で水鐡砲の水を耳に注ぎ込み、思惑おもわく通り氣違ひのやうになつた馬から、相澤樣が落ちるところをねらつて、かねて用意した文箱を摺り換へたらう。
私は奇観をそこねないために法被はつぴで出かけることにする。
雑文的雑文 (新字新仮名) / 伊丹万作(著)
私は襟と背中に屋号を白く染抜いた浅黄色の法被はつぴの上に、白い胸当をかけて、店頭に牛肉を切つて居る若衆姿の自分や、また既に大きな料理屋の主人になりすまして
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
よしんばつばくろが紺の法被はつぴを脱ぐ折はあらうとも、福田博士にそんな事はあるまいと思はれた名代の木綿羽織である。だが、実際博士はそれを脱いで、皺くちやな背広をてゐた。
黒助はさう言ひ乍ら、法被はつぴを脱いで、馬の首に冠せ、その下から手を入れて
とほはなれたてらからは住職ぢうしよく小坊主こばうずとが、めた萠黄もえぎ法被はつぴとも一人ひとりれて挾箱はさみばこかつがせてあるいてた。小坊主こばうずすぐ棺桶くわんをけふたをとつてしろ木綿もめんくつてやつれたほゝ剃刀かみそり一寸ちよつとてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
が、そんな事でなだめられる『東雲しのゝめ』でなかつたのか、それともすれ違ひさま、梯子の先が馬の尻に觸つたのか、馬はパツと棹立さをだちになると、馬丁べつたう法被はつぴをかなぐり捨てゝ、奔流ほんりゆうの如く元の道へ。
紺の法被はつぴに白ぱつち
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)