油汗あぶらあせ)” の例文
遊んでいる金槌かなづちをこっそりにぎったりすると、鍛冶屋かじやのおやじは油汗あぶらあせで黒く光っているひたいにけわしいしわをつくっていうのだった。
空気ポンプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
耳は火のようにほてり、鼓動こどうは高鳴り、電鍵でんけんを握る指端したんにはいつの間にかシットリと油汗あぶらあせにじみ出ていました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼の郷里熊本などは、昼間ひるまは百度近い暑さで、夜も油汗あぶらあせが流れてやまぬ程蒸暑むしあつい夜が少くない。蒲団ふとんなンか滅多に敷かず、ござ一枚で、真裸に寝たものだ。此様こんなでも困る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
品子は、全身油汗あぶらあせにまみれて、恐る恐る寝返りをした。そして、庭に面したガラス窓を見た。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ところが、一代は退院後二月ばかりたつとこんどは下腹の激痛げきつううったえ出した。寺田は夜通しぜてやったが、痛みは消えず、しまいには油汗あぶらあせをタラタラ流して、痛い痛いと転げ廻った。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
黒井さんが、「もう好い」と言うまで、ぼくは油汗あぶらあせをだらだら流しづめでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
私どもははじめまるでんだようになっていましたがだんだん近くなって見ますとその役人の顔はまっでまるで湯気ゆげが出るばかりことはなからはぷつぷつ油汗あぶらあせが出ていましたので何だかきゅうにこわくなくなりました。
二人の役人 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大言たいげんきしむかしこゝろはづかしさよれがこのんで牛馬ぎうばかはりに油汗あぶらあせながし塵埃ぢんあいなかめぐるものぞ仕樣しやう模樣もやうきはてたればこそはじ外聞ぐわいぶんもなひまぜにからめててたのつまり無念むねん殘念ざんねん饅頭笠まんぢうがさのうちにつゝみてまゐりませうとこゑびくすゝめるこゝろいらぬとばかりもぎだうにひとそれはまだしもなりうるさいは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二十センチほどの直径のことだから、どんなに油汗あぶらあせを流してみても、身体が通りゃしない。それだのに犯人の入った証拠は、歴然れきぜんとしているのだ。こんな奇妙なことがあるだろうか
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
警官達は何とも知れぬ不安の為に、ジリジリと油汗あぶらあせが湧き出すのを感じた。彼等の目はスイッチに釘着くぎづけになった。「あのスイッチを入れさせては大変だ」という考えが、一同の胸をワクワクさせた。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大江山捜査課長は油汗あぶらあせぬぐいとまもなく、水を浴びたような顔をして、縷々るる陳述ちんじゅつした。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
のぞきこんでいる人々のひたいには、油汗あぶらあせたまのように浮かび上ってきました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)