うつ)” の例文
外には何物をもれる余地のなかつたことを——皆さんが各々てんでに理想のひとを描いて泣いたり笑つたり、うつしたりして騒いで居なさる時にでも
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ただの町獣医まちじゅういつまでは親類しんるいわせる顔もないと思うから、どう考えてもあきらめられない。それであけてもれてもうつうつたのしまない。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
踊る者があり、歌う者があれば、また、一ぐうでは、怒色どしょくをなして、酒に、うつをいわせている者があるのも、人間講とすれば、やむをえない。
私は草を敷いて身を横たえ、数百年すひゃくねんおのの入れたことのないうつたる深林の上を見越しに、近郊の田園を望んで楽しんだことも幾度であるかわかりませんほどでした。
春の鳥 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
よびなされて息子せがれをばせめて花見か芝居へなど遣てうつをばはらさせてとおほせが有て候へば先花見を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
但だ予はくの如くに神を見、而してこれよりいて天地の間の何物を以てしても換へがたき光栄無上なる「吾れは神の子なり」てふ意識のうつとしてうちより湧き出づるを覚えたり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
 この句は小商人こあきんどの旅にて、わろき酒など飲みてうつを晴さんとするに、なかなか胸につかえたりといふなり。いづれも秋の淋しき処より案じ出だせるなり。この句露とある故秋季なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一見人工をくわへたる文珠菩薩に髣髴はうふつせり、かたはらに一大古松あり、うつとして此文珠いわへり、丘を攀登ばんとして岩下にちかづかんとするも嶮崖けんがい頗甚し、小西君および余の二人奮発ふんぱつ一番衆に先つてのぼ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
びたるの音に和し、陰惨たる海風に散じ、忡々ちゆうちゆうたる憂心を誘ふて犇々ひしひしとして我が頭上に圧し来るや、郷情うつとして迢遞悲腸てうていひちやうために寸断せらるゝを覚えて、惨々たる血涙せきもあへず
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
贈太政大臣信長の婿たる此の忠三郎がよし無き田舎武士いなかざむらい我武者がむしゃ共をも、事と品によりては相手にせねばならぬ、おもしろからぬ運命はめに立至ったが忌々いまいましい、と胸中のうつをしめやかにらした。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
え、んの少しばかしね。何者なあに、飮まなけア飮まないでも濟むんですけども、氣がうつした時なんか一ツ猪口ちよこいただくてえと、馬鹿にい氣持になツて了ふもんですから、つい戴く氣になツて了ふのですの。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)