ぶな)” の例文
そいつは、そこのあのぶなの幹の側に立つてゐたつけが——フオレスのヒイスの上でマクベスに現れた奴等の仲間みたいな妖婆です。
深淵に泳ぐ岩魚いわなの姿、みずみずしい大葉柳やならぶなの森林、片桐松川の鬼面に脅かされた目には、飯田松川の流れは高雅にすぎたのかもしれないのだ。
二つの松川 (新字新仮名) / 細井吉造(著)
ほるとはぶなの木にて作りたる木鋤こすきにてつちほるごとくして取捨とりすつるを里言りげんに雪を掘といふ、すでに初編にもいへり。かやうにせざれば雪のおもきいへつぶすゆゑなり。
信濃金梅しなのきんばいのようであったが、側まで行って確める程の勇気はなかった。道は急に爪先上りとなって、ぶなならの大木が茂った中を九十九折つづらおりに上っている。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
途上ぶなの木かげの雪、妙な黄色に染まっているのを見る。この木がいち早く雪間に緑りの陽炎を燃やす、あの五月も眼の前だ。天地の旅は悠々として又厳粛。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
ぶなと樫の森は、蝸牛かたつむりをさがすには理想的である。私はかつて、ニューイングランドで発見したものと、同種であるらしく思われる「種」をいくつか見つけた。
先刻さっき窓越しに、太いぶなの柱を二本見たので、それが棺駐門であるのを知ったのだよ。いずれ、ダンネベルグ夫人のひつぎがその下で停るとき、頭上の鐘が鳴らされるだろう。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
とはいふものの、また可愛かはゆくもあるぶなの木、不思議の木、わたしの悲しい心のよろこび
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
楢とぶなとのうれひをあつめ
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
るには木にてつくりたるすきもちふ、里言りげんにこすきといふ、すなはち木鋤こすき也。ぶなといふ木をもつて作る、木質きのしやう軽強ねばくしてをるる事なくかつかろし、かたちは鋤にひろし。
そしてアデェルがパイロットとふざけたり羽子はねをついたりして遊んでゐる間に、彼は、アデェルからも見える長いぶなの並木路を歩いて見ないかと私を誘つた。
檜に交ってもみぶななども少しはあったように思う。金懸の小屋は上松から二里余、丁度五合目に当っている。萩、桔梗ききょう女郎花おみなえしなどがこの高さにある筈がない。
木曽駒と甲斐駒 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そこに蔭を落すぶなや唐檜に、病人が医者の切開刀を盗み見るほどの神経がないとすれば、幸いなるかな。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
色白の腕をしたぶなの木よ、聖母瑪利亞おんはゝまりや、子持を歎き給ふ禮拜堂らいはいだう二形ふたなり利未僧りびそうが重い足で踏み碎いた、あらずもがなの足臺あしだい、僧官濫賣のかねれて、燒焦やけこげをこしらへた財嚢ざいなう、「愛」の神が
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ほるとはぶなの木にて作りたる木鋤こすきにてつちほるごとくして取捨とりすつるを里言りげんに雪を掘といふ、すでに初編にもいへり。かやうにせざれば雪のおもきいへつぶすゆゑなり。
いずれかといえば発育盛りの若木が多く、とちならの類・山榛やまはんのき・桂・樺・シデ・ぶなかえでなどは一抱以上もあるものがないでもないが、大木は割合に少ない方であろう。
黒部峡谷 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
助七によると、この辺は「馬のコヌカミ」という処だそうな。下りになって、南平ミナミダイラは小黒部の河原に近く、ぶな、欅、七葉樹とちなどの大木が、高く梢を連ねてほの暗い。林を抜けると、一軒の小屋がある。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
そして只見川渓谷のぶな水楢みずならの明るい闊葉樹林に比べて、日光から会津の山という山が真黒に茂った暗い針葉樹林に掩われているのに一驚を喫しない者はあるまい。
空谷からたにを過ぎて、山かせぎなどする人の休場である山の鼻で一休ひとやすみする。桂、ぶなの大木が多い。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
途中の闊葉樹林は主としてぶなであるが、直径二、三尺以上にも及ぶものが少なくない。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
金峰山のぶな米栂こめつがの美林、今ではもう昔の面影をしのぶたよりさえない川端下かわはげや梓山の戦場ヶ原の唐松林、十文字峠途上の昼お暗い針葉闊葉の見事な林、皆其中を歩いたばかりでなく
秩父のおもいで (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
野営地の附近は水楢みずならとちぶな、などの大木が鬱蒼と繁った見事な闊葉樹林である。
北岳と朝日岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
しかるにそこは既に風雪の激しい山頂若しくは夫に近い所であるから、ぶななら七竈ななかまどまでが令法りょうぶや万作などと同じように灌木状をなして曲りくねっている中へ、米躑躅こめつつじ石楠しゃくなげなどが割り込み
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
赤沢の合流点附近に於けるぶな水楢みずならの深林は、なんという潤いにみちた豊麗な色沢をもっていることであろう。この谷で聞く杜鵑の声ほど場所にふさわしいものはあるまいといつも想うのである。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
深いぶなの純林である。林の奥では蝦夷春蝉が雨の降りそそぐように鳴いている。初夏の強烈な日光も青葉若葉の蔭に吸い込まれて、地面まではとどかない。陰湿な気がうら淋しくあたりをめている。
渓三題 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ぶななら、檜などの大木があるが、其北は広袤こうぼう数里にわたって、小灌木の外には殆ど目を遮る大木もなく、北には根原、西北には麓、西南には猪之頭、南には人穴と、遠く半円形に人家が点在している。
春の大方山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)