棧敷さじき)” の例文
新字:桟敷
家々の棧敷さじきと飾り物、そこへ出入をする老幼男女の飲食宴遊えんゆうの楽しみが主になっているが(日本奇風俗)、それでも翌七日の朝早く
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
棧敷さじきの下で剃刀かみそりを見つけたんですよ。松の枝か何んかに引つ掛つてゐた樣子で、裏木戸を開けると、頭の上からバタリと落ちたんです」
にらんだ犯人ほしなる勘当宗助、はたして一座にいるやいなやと、ずかずか棧敷さじきのほうから小屋の中へはいっていきました。
お神は裏木戸の瀬川に余分の祝儀しゅうぎをはずみ、棧敷さじきの好いところを都合させて、好い心持そうにり返っているのだったが、銀子もここへ来てから
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ロシアの音楽やオペラの話をするとき、年とった母夫人のいかめしい顔に生気がよみがえって、まるで昨夜、その華やかな棧敷さじき席にいたかのようだった。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
車室しやしつからりたのは自分じぶん一人ひとりだつたかれに、海拔かいばつ二千じやくみねけるプラツトフオームは、あたかくもうへしつらへたしろ瑪瑙めなう棧敷さじきであるがごとおもはれたから、驛員えきゐんたいする挨拶あいさつ
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
苑の芝生に設けたる棧敷さじきの邊より、烟火空に閃き、魚の形したる火は青天をかけりゆく。偶〻たま/\とある高窓の背後に、男女の影うつれり。あれこそ夫婦の君なれと、ドメニカ耳語さゝやきぬ。
北海道相撲の一行が來て三日間興行をした時なども、渠は渠等と組んで棧敷さじきを買ひ切り、三日を通して大袈裟な見物に出かけ、夜は夜で、また相撲を料理屋に招いて徹宵のいんをやつた。
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
猩々しょうじょうにいたるまですべての生物を一列に並べて舞台の背景とし、その前へ人間を引き出して浮世の狂言を演ぜしめ、自分は遠く離れて棧敷さじきから見物している気になって、公平に観察するのである。
生物学的の見方 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
父母とともに行く歌舞伎座かぶきざや新富座の緋毛氈ひもうせんの美しい棧敷さじきとは打って変って薄暗い鉄格子てつごうしの中から人の頭を越してのぞいたケレンだくさんの小芝居の舞台は子供の目にはかえって不思議に面白かった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
棧敷さじきを落したのは、水へ落ちた者——二人の仕業しわざだ。前から少しは繩を切つて置いても、端つこの二ヶ所は水へ落ちる覺悟でなきや切れない。
一番終りの日で、彼等の後は棧敷さじきの隅までぎっしりの人であった。一間と離れぬところに、舞台が高く見えた。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
年寄りはおどろいたように面をあげたので、右門は目まぜでいざないながら、棧敷さじきのすみの目だたないところへ連れていくと、さっそくに尋問を開始いたしました。
庸三と母親は、しばらくすると歌舞伎座の二階棧敷さじきの二つ目に納まっていた。それが鴈治郎がんじろう一座の芝居で、初めが何か新作物の時代ものに、中が鴈治郎の十八番の大晏寺だいあんじであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
我は辛く一席をあがなふことを得き。いづれの棧敷さじきにも客滿ちて、暑さは人を壓するやうなり。演劇はまだ始まらぬに、我身は熱せり。きのふけふの事、わがためにはすべて夢の如くなりき。
くもあめもものかは。辻々つじ/\まつり太鼓たいこ、わつしよい/\の諸勢もろぎほひ山車だし宛然さながら藥玉くすだままとひる。棧敷さじき欄干らんかんつらなるや、さきかゝ凌霄のうぜんくれなゐは、瀧夜叉姫たきやしやひめ襦袢じゆばんあざむき、紫陽花あぢさゐ淺葱あさぎ光圀みつくにえりまがふ。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこは大川へ突き出すやうに花火見物の棧敷さじきができてゐて、危ない梯子で、狹い庭へ降りられるやうになつてをります。
かれら一統のさし控えていた席はちょうど東方西方のまんなかになっている棧敷さじき土間でありました。
棧敷さじきの餘りに暑き故なるべしと答へつゝ、我は起ちて劇場のに走り出でぬ。
と先に立ち、幕明き前のざわつく廊下を小股こまたにせかせか歩きながら、棧敷さじきの五つ目へ案内し、たらたらお世辞を言って、銀子の肩掛けをはずしたり、コオトを脱がせたり、行火あんかの加減を見たりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
瀬川の切符は、舞台に向って右側の中ほどにある棧敷さじき席だった。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「ところが、よく調べて見ると、あの水の上に突き出した棧敷さじき尖端とつさきの方の繩が、十ヶ所ばかりきつてあつたのだ」
さればこそ、お局群の熱狂ぶりは、正気のほどが疑われるくらいで、江戸錦ィ、江戸錦という声援とともに、いずれもぽっとほおを染めながら、棧敷さじきの前へのめり出してしまいました。
いたち小僧にされちや八五郎が可哀想だから、今夜は俺が身代りになつて二階棧敷さじきから見物して居たといふわけさ」
假り小屋の到つて粗末なものですが、骨組だけは嚴重で、舞臺の上から客席の天井を通つて、向う棧敷さじきまで張つた綱の高さは、全く六間以上もあるでせう。
「喜八の家は坐つて居てつりの出來るのが自慢で、川向うの狐の嫁入見物には、これほど結構な棧敷さじきはない」
「腹を減らして、舌嘗したなめずりをしながら、打揚花火にノド佛をのぞかせたつて、面白かありませんよ。棧敷さじきや舟の人達のやうに、腹一杯になつたところで、玉屋アと來るから恰好がつくんで」
棧敷さじきに唯一つ殘つた灯の下で、木戸番の種吉はポロポロと涙をこぼすのです。
「西棧敷さじきにも、お客樣がゐたよ」