格闘かくとう)” の例文
その景色が素戔嗚には、不思議に感じるくらい平和に見えた。それだけまた今までの格闘かくとうが、夢のような気さえしないではなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
二つのたましいは、同じ肉体の中で、たえず格闘かくとうをつづけているんだ。だから名津子さんが、たえず苦しみ、好きなことを口走るわけだ
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしはカピがそうして、いやいやわたしの命令めいれいしたがいながらも、ゼルビノとの格闘かくとうにわざと負けてやったことがわかった。
かれの狡獪こうかいなそらおどしは効果こうかがなかった。火縄ひなわはいまの格闘かくとうでふみけされてしまったので、筒口つつぐちをむけてもにわかの役には立たないのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見ればまさしくドノバンが地上に倒れ、赤手せきしゅをふるって格闘かくとうしている。左のほうの木陰に寄ってイルコックが、銃をかまえてねらいをつけている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
今まで聞こえていた物音は自分の空耳そらみみであったのか、あれほどの格闘かくとうが俄かにひっそりと鎮まる筈がない。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、ねじあっているうちに、ふたりいっしょにたおれ、くんずほぐれつの格闘かくとうになりました。
奇面城の秘密 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わしは白昼はくちゅうに見たのだから。それは無数の霊の空中に格闘かくとうする恐ろしい光景であった。わしは武器の鏗鏘こうそうとして鳴る音を空中に聞いた。そのあるものは為義ためよしのようであった。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
昔、朝廷ちょうていでは毎年七月に相撲すもう節会せちえもよおされた。日本全国から、代表的な力士をされた。昔の角力すもうは、打つる投げるといったように、ほとんど格闘かくとうに近い乱暴なものであった。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たちまち格闘かくとうらしくなり、やがてずんずんガドルフの頭の上にやって来て、二人の大きな男が、組み合ったりほぐれたり、けり合ったりなぐり合ったり、烈しく烈しくさけんであらわれました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
署長しょちょうは起きあがったが、顔をしかめて、また、へなへなとすわった。そこへ、透明人間とうめいにんげんとの格闘かくとうきずだからけの顔となった博士はくしが、ふらふらになって階段かいだんを降りてきて、くやしそうに言った。
狼群ろうぐんと牛の格闘かくとう
それだけになお、この戦いは切っ先から火を降らし、槍を折り太刀をくだき、まさに、肉親に怒る肉親の格闘かくとうのごとき、凄まじいものを現出した。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを発見した夜警中の守衛しゅえいは単身彼等を逮捕たいほしようとした。ところがはげしい格闘かくとうの末、あべこべに海へほうりこまれた。守衛はねずみになりながら、やっと岸へい上った。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また、ある探検隊員は月世界で行方不明になったが、さいごに彼がいた地点では格闘かくとうしたあとが残っている。またそこに落ちていた物がわれわれ人類の作ったものではないと思われる。
三十年後の世界 (新字新仮名) / 海野十三(著)
けとばす、つきとばす、すごい格闘かくとうがはじまった。
このときおそろしい犬の格闘かくとうが始まった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
と云いながら、壁のまわりを走り歩いた。激しい格闘かくとうがなお続いた。信雄は、手に白刃を提げながら狼狽して
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
池がこの旱魃かんばつ乾上ひあがって沼みたいになりかかっているところがあるんです。その沼へ踏みこもうという土のやわらかいところに、格闘かくとうあとらしいものがあるんです。靴跡がみだれています。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
チユウヤの妻は、そのあひだに、格闘かくとうの音を聞いて、早くも捕手の向つたことをさとり、夫の重要書類を火の中に投げ込んだ。その書類には、陰謀の一味たる貴族などの名前もつてゐたのである。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
の烈しい格闘かくとうが——それは戦闘というよりは死力の噛みあいとなって——ここにも、ひと渦、巻き起った。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二宮君と三木君もやって来たので、三人して、猫と鼠の格闘かくとうでめちゃめちゃになった装置の復旧ふっきゅうを手つだった。この仕事は、一日では終らなかった。あと四五日はかかるであろうと思われた。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鹿之介は川へ飛び入ったが、かねてはかっていたことなので、岸から船中から投げ槍を下し、また相継いで川へ飛び込んで格闘かくとうし、ついにその首級しるしを挙げてしまった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
26 格闘かくとう
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
法師野ほうしのにいる呂宋兵衛るそんべえのところへかけつけようとしたが、ふと気がつくと、いまの格闘かくとうで、さっき蛾次郎がじろうからせしめた小判こばんが、あたりに山吹やまぶき落花らっかとなっているので
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、長堤一里の間、五十間おきには、番小屋があり、赤々とかがりをいていたので、たちまち番兵が駈けつけ、格闘かくとうのすえ、一名は捕えられ、一名はついに逃げてしまった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まったく人まぜをせぬ格闘かくとうがつづいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)