枯死こし)” の例文
ほとりの樹木など沢山たくさん枯死こししているのはその熱泥ねつでいを吹き上げたところである。赤い泥の沸々ふつふつと煮え立っている光景は相変らず物すごい。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
進化の行程はすべてこの通りだ、幾百万年、我制統に光を与えこの地上の生命を支えて来た太陽も老廃して枯死こしする場合とはなった。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
この終身牢に枯死こししてしまう運命であったものが、誰かの手で、江戸城へ届けられるとすれば、その甲賀世阿弥に死花が咲くわけである。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち富の勢力が一方において封建社会を呑みつつあるに、他方においては、封建社会はその活力を失うて、既に枯死こしせんとす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
彼等かれらふゆ季節きせつおい生命せいめいたもつてくのにはすべての機能きのう停止ていししてしまらねばらぬ。それでなければ彼等かれら氷雪ひようせつため枯死こしせねばならぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
見ずや、上野の老杉ろうさんは黙々として語らず訴へず、独りおのれの命数を知り従容しょうようとして枯死こしし行けり。無情の草木はるか有情ゆうじょうの人にまさるところなからずや。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
附近の草木は枯死こしし、鳥獣の死屍しし累々るいるいたるのが見えた。不図ふと、死の谷へ下りようという峠のあたりに人影が見えた。人間らしくはあったがまさしく怪物であった。
科学時潮 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
もしこの諸能力中の一個のみを発育する時は、たとえその発育されたる能力だけは天禀てんぴんの本量一尺に達するも、他の能力はおのずから活気を失うて枯死こしせざるをえず。
文明教育論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
花がむとまもなく数条の長い緑葉りょくようで、それが冬をし翌年の三月ごろに枯死こしする。そしてその秋、また地中の鱗茎りんけいから花茎かけいが出て花が咲き、毎年毎年これを繰り返している。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
見ずや、上野の老杉ろうさんは黙々として語らず訴へず、ひとりおのれの命数を知り従容しょうようとして枯死こしし行けり。無情の草木はるか有情ゆうじょうの人にまさるところなからずや。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
地球にいま棲息している人間や動物植物は、地球の気候風土にたえられるものばかりであって、それにたえられないものはとちゅうで死滅しめつ枯死こししてしまったのだ。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
内儀かみさんは聳然すつくりたつてはるが到底たうてい枯死こしすべき運命うんめいつて喬木けうぼく數本すうほん端近はしぢか見上みあげていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
この時において国民の膨脹性、全く枯死こしせざらんとするも、それに得べけんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
今年花また開くの好時節に際し都下のある新聞紙は濹上ぼくじょう桜樹おうじゅようや枯死こしするもの多きを説く。ああ新しき時代は遂に全く破壊の事業を完成し得たのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
故にかかる場合においては、養子制は便宜の制のみならず、必然の制といわざるべからず。しこうしてこの養子こそややもすれば枯死こしせんとする封建社会に、新活力を与うるおもなる要素たらざるはなし。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
日本の神社と寺院とはその建築と地勢と樹木とのまことに複雑なる綜合美術である。されば境内の老樹にしてもしその一株いっしゅ枯死こしせしむれば、全体より見て容易に修繕しがたき破損をきたさしめた訳である。
しかし大正三年の今日幸に枯死こしせざるものいくばくぞや。