杯盤はいばん)” の例文
静かで、杯盤はいばんも取りみださず、ひとりつつましやかな客は、佐藤義清だけだった。杯をくちにふくみながら、その義清が、主へいうには。
折から下坐敷より杯盤はいばんを運びきし女の何やらお力に耳打して兎も角も下までお出よといふ、いや行き度ないからよしてお呉れ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一夕いつせき、松川の誕辰たんしんなりとて奥座敷に予を招き、杯盤はいばんを排し酒肴しゆかうすゝむ、献酬けんしう数回すくわい予は酒といふ大胆者だいたんものに、幾分の力を得て積日せきじつの屈託やゝ散じぬ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
忠通が倚りかかっているふすまの絵も、そこらに取り散らしてある杯盤はいばんの数かずも、おどろいて眺めている人びとの衣の色も、皆あざやかに映し出された。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
杯盤はいばんの乱れた中に一人酔いつぶれていたのが廣介、そして、それを介抱したのが彼の妻の千代子だったのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
後を追つて來たお駒は、其處に飮み荒らし喰ひ荒らしたまゝ殘つてゐた杯盤はいばんを見ると、箒を棄てて
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
默つて行燈を退かせ、杯盤はいばんをざつと片附けて、お富は部屋の隅に顫へて居ります。
●さて一人の哥妓げいしや梯上はしごのうへにいでゝしきりに岩居がんきよぶ、よばれてろうにのぼれり。は京水とゝもに此よくす、楼上ろうしやうにははや三弦さみせんをひゞかせり。ゆあみしをはりて楼にのぼれば、すで杯盤はいばん狼藉らうぜきたり。
附景気つけげいきで面白さうに騒がれるだけ騒ぎ、毒と知りながら、麦酒ビールに酒ぜてのぐいのみ、いまだに頭痛がしてなりませぬとの事なり、兼吉がこの話の内、半熟の卵に焼塩添へて女の持ち運びし杯盤はいばん
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
台所に杯盤はいばんの音、戸口に見送りの人声、はや出立いでたたんと吸物の前にすわれば床の間の三宝さんぽう枳殻からたち飾りし親の情先ず有難ありがたく、この枳殻誤って足にかけたれば取りかえてよと云う人の情もうれし。盃一順。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
杯盤はいばん狼藉ろうぜきのわびしい華やかさ
死の淵より (新字新仮名) / 高見順(著)
午餐なので、杯盤はいばんはまもなく退げられ、甘い酒と、果盆かぼんが代って出た。いや、さらに美々しい一盆には、五箇の銀塊が乗っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おりから下坐敷したざしきより杯盤はいばんはこびきしおんななにやらおりき耳打みゝうちしてかくしたまでおいでよといふ、いやたくないからよしてお
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
廊下を歩く足音がバタ/\ときこえ、やがて、杯盤はいばんを取り片付け、はうきで掃いてゐる氣色けはひがした。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
杯盤はいばんを片附けた、柳橋の清川の大廣間、二十幾基の大燭臺に八方から照されて、男女十幾人の一座は、文句も不平も、大きな歡喜の坩堝るつぼの中にとかし込んで、唯もう、他愛もなく、無抵抗に
●さて一人の哥妓げいしや梯上はしごのうへにいでゝしきりに岩居がんきよぶ、よばれてろうにのぼれり。は京水とゝもに此よくす、楼上ろうしやうにははや三弦さみせんをひゞかせり。ゆあみしをはりて楼にのぼれば、すで杯盤はいばん狼藉らうぜきたり。
満座は腹を抱えて笑い、さらに杯盤はいばんを新たにして、男と男の心胆をそそぎ合う酒幾。やがて鶏鳴けいめいまで聞いてしまった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
杯盤はいばんを片付けた、柳橋の清川の大広間、二十幾基の大燭台しょくだいに八方から照されて、男女十幾人の一座は、文句も不平も、大きな歓喜の坩堝るつぼの中にとかし込んで、ただもう、他愛もなく、無抵抗に
口を含嗽うがいし、席を清めて、謹んでお迎えあるべきに、座もうごかず、杯盤はいばんの間へ私を通し、あまつさえ臣下の丁儀が頭から使者たる手前に向って……汝、みだりに舌を動かすな。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまたの郷士たちは、みな押ッ取り刀で八方へ馳け出し、あとの空虚には、燭も白け渡って、杯盤はいばん狼藉ろうぜきと阿佐ヶ谷神楽かぐらの者が五、六人残って、そこにウロウロしているばかり。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぜひなく家臣たちは、夜のものを着せかけて、そっと杯盤はいばんをとりかたづけ、やがてみな、疎林そりんの外で、夜営の支度にかかっていた。そして、そうした外の物音もせきとひそまり返った頃である。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「恐縮です。このままの杯盤はいばんでは」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)