晩酌ばんしやく)” の例文
晩酌ばんしやくで一本つけさせ、宜い機嫌で御飯を濟ました人が、格子があるにしても、窓を開けたまゝで、自害をする人があるでせうか」
夕方ゆふかたになると竹垣たけがきに朝顔のからんだ勝手口で行水ぎやうずゐをつかつたのちのまゝ真裸体まつぱだか晩酌ばんしやくを傾けやつとの事ぜんを離れると、夏の黄昏たそがれ家々いへ/\蚊遣かやりけむりと共にいつか夜となり
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
老主人はこれもいつもの通り長火鉢ながひばちの側に箱膳はこぜんを据ゑて小量な晩酌ばんしやくを始めてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
葛籠つゞらふたつたり、着換きがへほころびしらべたり、……あらつた足袋たび裏返うらがへしたり、女中ぢよちうかひものにしたり、なに小氣轉こぎてん立𢌞たちまはつてたとおもふと、晩酌ばんしやくもので一合いちがふつけたときはなは見事みごとでない
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さけきなたちで、いまでもすこしづゝは晩酌ばんしやく所爲せゐか、色澤いろつやもよく、でつぷりふとつてゐるから、としよりは餘程よほどわかえる。御米およね叔母をばるたんびに、叔母をばさんはわかいのねと、あとでよく宗助そうすけはなした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
最初はプリプリしてゐた鐵も、平次の心持が解ると次第に打解うちとけて、晩酌ばんしやくを附合ひながら、なめらかに話すやうになつてゐたのです。
わかつたよ、八。晩酌ばんしやくを止められたのが不足なんだらう、だが、少し我慢しろよ、二日か三日のことだ。それから、聖天樣の御堂なんかに氣を
若いくせに、二合の晩酌ばんしやくをペロリと片付け、下女に床を取らせて早寢をしてしまひ、あくる朝少し朝寢をして發つた——とそれだけのことですよ
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
案内してくれた係りの下女は、中年近いみにくい女、平次はそれをからかひながら江戸から百里も離れたやうな心持で、晩酌ばんしやくなどを申しつけます。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
しつかり者の四十男で、金儲けや商賣には拔け目のないやうな人柄ひとがらですが、昨夜は少しばかり晩酌ばんしやくをやつて、亥刻よつ(十時)そこ/\に二階へ上がつた切り
平次と八五郎はそんなことを言ひながら、晩酌ばんしやくの支度をしながら女房のお靜が待つてゐる家路を急ぐのでした。
「俺はもう歸つて一杯やつて寢るよ。浪人者の高利貸が首をくゝつたところで、晩酌ばんしやくを休むわけには行かない」
その晩、平次の家へ八五郎がやつて來たのはもう大分けてからでした。平次はそれ迄珍らしく女房のお靜を相手に、晩酌ばんしやくの追加などをして、待つて居た樣子です。
南蠻物の毒藥を祕藏して居た玄龍が、養父の晩酌ばんしやくに細工をしなかつたとは、誰が言ひきれるものでせう
天童太郎は晩酌ばんしやくを始めてゐた樣子でしたが、盃をはふるやうに、あわたゞしく迎へてくれました。
寺社役河村半治は、晩酌ばんしやくの膳と内儀の顏が戀しくなつた樣子で、さつさと引揚げてしまひました。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
そこでは平次の戀女房のお靜が、晩酌ばんしやくの用意をして、氣もそゞろに待つてゐるのでした。
ガラツ八も最初はしぶりましたが、向柳原の叔母の家に居ても、親分の平次の家に居ても、居候に變りはないのですから、結局晩酌ばんしやくと御馳走と、お琴の美しさを滿喫するのが景物で
「それから手前へ晩酌ばんしやくが出るだらう、——醉つた勢ひで、何とかならないものかね」
「二度目はお醫者が晩酌ばんしやくを過して休んでゐたさうで、少しばかり手間取りましたが」
平次とお六が泊つたのは、とら屋三四郎、晩酌ばんしやくを一本つけて、さて、話が枝がさし葉がしげります。番頭は夫婦と見たか、駈落者かけおちものと見たか、ひどく心得て同じ部屋に泊めるつもりなのを
お靜が出かけた後、邪魔する者もない心持で、晩酌ばんしやくの相手までしてゐたのです。
それは三月十日の夜のこと、晩酌ばんしやくの後を曳いて、思はず過した勘兵衞は、お關を側に引付けたまゝ、口を割るやうにして二た猪口ちよこ三猪口呑ませて、良い心持さうに何やら唸つて居りました。
「いや、機嫌の良いのは晩酌ばんしやくのせゐだよ、ところで、外はもう暗くなつたか」
お近の紙入を拾つてその中から毒藥を取り出し、あの晩そつとお勝手に忍び込んで、時代の晩酌ばんしやくの徳利に投り込んだに違ひあるまい。それと行き違ひに御隱居がお勝手へ搜しに來たのだらう
そつと忍び込んで晩酌ばんしやくに醉つてよく寢て居る三郎兵衞を絞め殺したのだ。
金十郎が晩酌ばんしやくの膳を押しやつて、あわてて大肌脱ぎを入れるのを
「さア歸らう八、丁度晩酌ばんしやくが一本ついて居るぜ」