日和びより)” の例文
半七が身支度をして神田の家を出たのは朝の四ツ(午前十時)過ぎで、会式桜えしきざくらもまったく咲き出しそうな、うららかな小春日和びよりであった。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うららかな小春日和びよりがつづくようになると、きっとお母さまのお熱も下ってお丈夫になり、私もあのひととえるようになって
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
葉山へ移ってから、二三日の間は、うららかな秋日和びよりが続いた。東京では、とても見られないような薄緑の朗かな空が、山と海とをおおうていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
倉地は昨夜のふかしにも係わらずその朝早く横浜のほうに出かけたあとだった。きょうも空は菊日和びよりとでもいう美しい晴れかたをしていた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まして宇治は荒れ日和びよりでない日もなく雪が降り積もる中に、物思いをしながらも暮らしている薫は、いつまでも続く夢を見ているようであった。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
方々の船で仕事をしているかんかんハンマーの音がうららかだった。トム公のために唄うように、かんかん日和びよりを唄が流れた——
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さはやかな写生日和びよりの朝なぞにこのX—の紙面をつい開くと、芸術的な霊感とはおよそ反対な空気がムツと顔を突いて来る。
姉弟と新聞配達 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
一應の調べが濟んで母家へ歸ると、打越金彌が寺へ行つて歸つたさうで、秋日和びよりに汗ばんだ身體を拭いて居りました。
もし誰かがこの子を何かからかいでもすれば、大人でもきっと口いしっぺ返しを覚悟しなければならないという鋭い頭の子で、去年の小春日和びよりに、U子が
愉快な教室 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
空は小春日和びよりの晴れて高くとびの舞ひ静まりし彼方かなたには五重の塔そびえてそのかたわらに富士の白く小さく見えたる
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
薄ら日和びよりの冬の日に、家の北庭の陰に生えてる、侘しい韮を刈るのである。これと同想の類句に
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
毎年その例でしたが、士気振興の意味でのお催しですから、諸侯旗本が義務的にこれへ列席を命ぜられるのは言う迄もないことなので、あたかも当日はお誂え向の将軍日和びより——。
今日はよく晴れた秋日和びよりで、時刻も真昼であたりは明るく、空ではとびが銀笛をころがし、浮かんでいる雲にたわむれてい、陽のあたっている地面では、犬が幾匹となく狂っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しあわせと風波のない航海日和びより、畳のような海原を、その船は見かけによらぬ快速力で、午後には紀伊半島の南端に達したが、どこへ寄港するでもなく、伊勢湾などは見向きもしないで
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
小春日和びよりの日などには、看護の人に手をひいてもらって、吾妻橋あずまばしまで歩いていったという便たよりなどが来た。それほど快くなりかけていた父が、二度目の発作を起したのは十二月のなかばだった。
花を持てる女 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
松飾などはとう取退とりのけられて、人々は沈滞した二月を遊び疲れた後の重い心でものうげに迎えようとしていたが、それでも未だ都大路には正月気分の抜け切らない人達が、折柄の小春日和びよりに誘われて
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
四郎はお蘭の傍にいるだけで満足した。お蘭の針仕事をしている傍に膝をゆるめて坐って、あどけないことを訊ねたり単純な遊びごとをしたりした。小春日和びよりの暖かい日にはうとうと居眠りをした。
みちのく (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ある梅日和びよりひるさがり——南町奉行越前守大岡忠相ただすけの役宅では。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
きちがい日和びより俄雨にわかあめに、風より群集が狂うのである。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日は四月の日曜どんたくの、あひびき日和びより日向雨ひなたあめ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
明治節大帝日和びよりかしこしや
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「やあ、ええお祭日和びよりで」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
二百二十日の荒れそこねたその年の天気は、いつまでたっても定まらないで、気違い日和びよりともいうべき照り降りの乱雑な空あいが続き通していた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
きょうは三月なかばの花見日和びよりといううららかな日で、ぶらぶら歩いている二人のひたいには薄い汗がにじんだ。
半七捕物帳:08 帯取りの池 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生温かい小春日和びより、午後の陽は縁側に這つて、時々生き殘つたあぶだまのやうに飛んで來る陽氣でした。
家々の軒には干魚がかけてしてあり、薄ら日和びよりの日を、秋風が寂しく吹いているのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
「よい秋日和びよりでございます」こういったのはお京である。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わが庭の桜日和びよりの真昼なれ贈りこしこれのつやつや林檎りんご
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「いい日だなあ。ちかごろにない小春日和びより
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本人に言はせると、三郎兵衞の家を覗いた後、中坂の上へ登つて、子供達の凧揚たこあげを見て居たといふことだ。寒くはあつたが、風のある良い凧揚げ日和びよりだつたよ。
「昼から催しておりました。今のうちに降りましたら、お発ちの頃には小春日和びよりがつづくかも知れませぬ」
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
めったにない、暖かな冬日和びよりである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
素晴らしい秋日和びより、夏の行事は一とわたり濟んで、行樂好きの江戸つ子達は、のちの月と、秋祭と、そして早手廻しに紅葉もみぢ見物のことを考へてゐる時分のことでした。
この頃の寒い風もきょうは忘れたように吹きやんで、いわゆる梅見日和びよりの空はうららかに晴れていた。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
風のない冬日和びよりだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このあいだから毎日吹きつづけた木枯しも、きのうの夕方から忘れたようにやんで、きょうは朝からうららかな小春日和びよりになった。そめ日の夕方には、宿の主人から酒肴の饗応があった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
八五郎の大變が舞ひ込んだのは、それから三日目、櫻日和びよりの美しい朝でした。
きょうは例の赤とんぼう日和びよりであるが、ほとんど一疋も見えない。わたしは昔の元園町がありありと眼前めさきうかんで、年ごとに栄えてゆくこの町がだんだんに詰らなくなって行くようにも感じた。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
きょうは例の赤とんぼ日和びよりであるが、ほとんど一疋も見えない。わたしは昔の元園町がありありと眼の先にかんで、年ごとに栄えてゆく此の町がだんだんに詰まらなくなって行くようにも感じた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「ああ、いい天気だ。こんな花見日和びよりは珍らしい。わたくしはこれから向島むこうじまへ廻ろうと思うのですが、御迷惑でなければ一緒にお出でになりませんか。たまには年寄りのお附合いもするものですよ。」
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)