かたがた)” の例文
それがためにこの二、三日は余の苦しみと、家内の騒ぎと、友人の看護かたがた訪い来るなどで、病室には一種不穏の徴を示して居る。
九月十四日の朝 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
かたがた以て鍵屋の苦心も、始終に算盤との談合は第二として、いずれとも江戸ッ児の嫌がるような広告花火はまァよしにして貰いてえものだ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
そして、それが聞届けになるべき様子が知れたので、かねて朝廷と幕府のお召もあったからかたがた、世子は上京せられることになった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
それがためにこの二、三日は余の苦しみと、家内の騒ぎと、友人の看護かたがた訪い来るなどで、病室には一種不穏の徴を示して居る。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
右の件々御報のかたがたかくの如くに御座候。当年は兎角とかく不順の気候御保重成され可く候。頓首不宣。五月十三日。毅堂宣拝。春濤森賢契。梧右ごゆう
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
連中のうちには、その頃呼吸器の疾患のため、遊覧かたがた博士連の診察を受けに来た浜屋の主人もあった。山の温泉宿や、精米所の主人もいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何ぞ悪意あって尾行したものであろうという鑑定で、女を取調べるかたがたその悪漢の手当に巡行を命ぜられたものである。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ちと君に頼みたい事があつてね、——実は二三日保養かたがた修善寺しゆぜんじ湯河原ゆがはらへ小説を書きにきたいんだが、……」
塵労 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
兄の云う所によると、佐川の娘は、今度久し振に叔父に連れられて、見物かたがた上京したので、叔父の商用が済み次第又連れられて国へ帰るのだそうである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
浮浪神ウカレガミも亦何時何処に割り込んで来て、神山を占めんとするやら計り難い故に、かたがた太陽神の御像ならば、睨み返しも十分で安心と言ふ考へであつたかと思はれる。
髯籠の話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
僕はこの事を御報告かたがた、もう一度お宅の人達に、色々お尋ねして見たいと思って、やって来たのですが
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「実は……」夫人は、微笑を含みながら、一寸ちょっと云いよどんだが、「今晩、演奏が済みますと、あの兄妹の露西亜ロシア人を、晩餐ばんさんかたがた帝劇へ案内してやろうと思っていましたの。 ...
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
どうも思うようでなくひとまず帰朝ときまり、その帰り路にシンガポールまで来ると急に気が変って、親友の公使を訪問かたがた、気分転換のためにもというのでシャム国に立ち寄られ
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
それから備前国岡山を経て、九郎右衛門の見舞かたがた姫路に立ち寄った。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二月の或る日、陽子は弟と見舞かたがた遊びに行った。停車場を出たばかりで、もうこの辺の空気が東京と違うのが感じられた。大きな石の一の鳥居、松並木、くるまのゴム輪が砂まじりの路を心持よく行った。
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
得ずそうらえ共お辰様身の上につき御厚情こうせい相掛あいかけられし事承り及びあり難く奉存候ぞんじたてまつりそうろうさて今日貴殿御計おんはからいにてお辰婚姻取結ばせられ候由驚入申おどろきいりもうし仔細しさいこれあり御辰様儀婚姻には私かた故障御座候故従来の御礼かたがたまかり出て相止申あいとめもうすべくともぞんい候えども如何いかにも場合切迫致しかつはお辰様心底によりては私一存にも参りがたくようの義に至り候ては
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それが爲に此二三日は余の苦しみと、家内の騒ぎと、友人の看護かたがた訪ひ來るなどで、病室には一種不穩の徴を示して居る。
九月十四日の朝 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
とうとう前約を果しかたがた、彼と差向いになる機会を利用して、直接彼に私の心労を打ち明けようと思い立ったのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
長塚君は不幸にして喉頭結核にかかって、此間迄東京で入院生活をして居たが、今は養生かたがた旅行の途にある。
それに、この家にはなくなった娘達の思い出がこもっていて、いつまでも悲しみを忘れることが出来まいと思いますから、かたがたあなたのおっしゃるようにする決心をしました
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だから、山人は宮廷が大和においでになつたときからのものだといふことが推察出来るし、かたがたこの本にも出てゐるであらう「穴師の山の山人と」の歌などが傍証を示してゐます。
神楽(その二) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「どこが悪いというでもないが、肺がちっと弱いから用心しろと言われたから、東京こちらで二三専門の博士を詮議せんぎしたが、事によったら当分逗留とうりゅうして、遊びかたがた注射でもしてみようかと思う」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今度、閣下に対する債権を、私が買い占めましたことについても、屹度きっと私をしからんやつだと、お考えになったゞろうと思いましたので、今日はおかたがた、私の志のある所を、申述べに参ったのです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
するとすぐに折り返して、三浦から返事が届きましたが、見るとその日は丁度十六夜じゅうろくやだから、釣よりも月見かたがた、日の暮から大川へ舟を出そうと云うのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幸い今日こんにちは御近所を通行致したもので、御礼かたがた伺った訳で、どうぞ御見知りおかれまして今後共よろしく
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
従来の考へ方では、此は尸童ヨリマシ系統のものであるから、人間を本態とする事になつて居るが、併し、人形を以つてする形式も多い事だし、かたがた、どちらを先ともきめられない様である。
三千代を連れて国へ帰る時は、娘とともに二人の下宿を別々に訪ねて、暇乞いとまごいかたがた礼を述べた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おお、大儀。大儀。それで予の腹も一先ひとまず癒えたと申すものじゃ。が、とてもの事に、その方どもは、予が車を警護かたがた、そこな老耄おいぼれを引き立て、堀川の屋形やかたまで参ってくれい。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「今日は拝借した書物を御返却かたがた、御目にかけたいものがあつて、参上しました。」
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)