塵労じんろう
或春の午後であつた。私は知人の田崎に面会する為に彼が勤めてゐる出版書肆の狭い応接室の椅子に倚つてゐた。 「やあ、珍しいな。」 間もなく田崎は忙しさうに、万年筆を耳に挟んだ儘、如何はしい背広姿を現した。 「ちと君に頼みたい事があつてね、——実 …