さしお)” の例文
その罰の当否はしばらくさしおき、とにかくに日本国において、学者と名づくる人物が獄屋に入りたるという事柄は、決して美談に非ず。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
書きたい事に切りがありませんが、其は他日の機会に譲って、読者諸君の健康を祝しつつここに一先ひとまず此手紙の筆をさしおきます。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
大臣とのその時の話はその外いろいろの事もございましたけれども、今記憶に存じて居るのがそれだけの事ですからその話はここでさしおきます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わたくしは筆をさしおくに臨んで、先づ此等の篇を載せて年をかさね、謗書旁午ばうしよばうごの間にわたくしをして稿をふることを得しめた新聞社に感謝する。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
或は今夜此筆をさしおく迄には、何等か解決のはしを発見するに到るかも知れぬが、……否々いやいや、それは望むべからざる事だ。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
夜業やげうの筆をさしおき、枝折戸しをりどけて、十五六邸内ていないを行けば、栗の大木たいぼく真黒まつくろに茂るほとりでぬ。そのかげひそめる井戸あり。涼気れうきみづの如く闇中あんちう浮動ふどうす。虫声ちうせい※々じゞ
良夜 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
其はさしおき、相家の所謂氣といふものは、望氣者流の所謂氣といふものとも異なつて、前に述べた如くである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その遺臣論はしばらさしおき、私の身の進退は、前に申す通り、維新の際に幕府の門閥制度、鎖国主義が腹の底からきらいだから佐幕の気がない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたくしの敬愛する所の抽斎は、角兵衛獅子かくべえじしることを好んで、奈何いかなる用事をもさしおいて玄関へ見に出たそうである。これが風流である。詩的である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
最早こゝでペンをさしおかねばなりません。願わくば神あなたの寂寥せきりょうを慰めて力を与え玉わんことを。願わくばあなたの晩年が、彼露西亜ろしあうるわしい夏のゆうべの様に穏に美しくあらんことを。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
宵の鐘暁の鳥も聞くに悲く、春の花秋の月も眺むるに懶くて、片親無き児の智慧敏きを見るにつけ胸を痛め心を傷ましめしが、所詮は甲斐無き嗟歎なげきせんより今生はさしおき後世をこそ助からめと
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
俗官ぞっかん汚吏おりはしばらくさしおき、品行正雅の士といえども、この徳沢とくたく範囲はんいを脱せんとするも、実際においてほとんどよくすべからざることなり。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と妻がう。ペンをさしおいて、取あえず一わんかたむける。銀瓶ぎんびんと云う処だが、やはりれい鉄瓶てつびんだ。其れでも何となく茶味ちゃみやわらかい。手々てんでに焼栗をきつゝ、障子をあけてやゝしばし外を眺める。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
子なり、脈絡すぢく、忘るゝ暇もあらばこそ、昼は心を澄まして御仏につかへまつれど、夜の夢はむすめのことならぬ折も無し、若し其儘にさしおいて哀しき終を余所〻〻しく見ねばならずと定まらば
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其婬心の深浅厚薄はしばらさしおき、婬乱の実をたくましゅうする者は男子に多きか女子に多きか、詮索に及ばずして明白なり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しばらくこれをさしおき、その聖人の道と称して、数百年も数千年も、儒者のこれを人に教えて、人のこれを信じたるおもむきをみれば、欠点、はなはだ少なからず。
小学教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
往古の事はしばらさしおき、鎌倉以來、世に亂臣賊子と稱する者ありと雖ども、其亂賊は帝室に對するの亂賊に非ずして、北條足利の如き最も亂賊視せらるゝ者なりと雖ども
帝室論 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
軽侮をきた所以ゆえん大本おおもとをばさしおき、ただに末に走りて労するものというべきのみ。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
要不要の論はしばらくさしおき、我が日本国人が外国交際を重んじてこれを等閑とうかんに附せず、我が力のあらん限りを尽して、以て自国の体面を張らんとするの精神は誠に明白にして、その愛国の衷情ちゅうじょう
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その吟味はしばらくさしおき、今日の処にては、磊落と不品行と、字を異にして義を同じうし、磊々落々らいらいらくらくは政治家の徳義なりとて、長老その例を示して少壮これにならい、遂に政治社会一般の風を成し
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)