揣摩しま)” の例文
お政にものぼるにもモデルがあるといって、誰それであろうと揣摩しまする人もあるが、作者自身の口からは絶えてソンナ咄を聞かなかった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
宇内うだいの大勢を揣摩しまし、欧洲の活局を洞観するの烱眼けいがんに到りては、その同時の諸家、彼に及ぶものすくなし、いわんや松陰においてをや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
こういったお秀は急にあかくなった。それが何の羞恥しゅうちのために起ったのかは、いくら緊張したお延の神経でも揣摩しまできなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
如何いかにして詩人を生ぜし乎、是れ固より知るべからざる者なり。世如何にして詩人を起す乎、是れ或は揣摩しますべき者なり。
詩人論 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
すなわち人は愛の作用を見て直ちにその本質を揣摩しまし、これに対して本質にのみ名づくべき名称を与えているのではないか。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
総て知りたがっていることがわからないのだから、それでさまざまの揣摩しまと臆測とが、まことのように伝えられて来るのはもっとものことであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こればかりは如何いかに論議を重ねても人間の揣摩しまの及ぶところでない。精神力、しかり。叡智、然り。大愛、然り。熱情、然り。純無垢、然り。技能、然り。
永遠の感覚 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
事件に関するあらゆる点に於て、さまざまな揣摩しま・臆測が横行したが、事件の元兇についても同断であった。始め人々は兇蕃の首領は花岡一郎であるにちがいない、と考えた。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
どうしてこんな事件が勃發したか? 世間では大分揣摩しま臆説した向もあつたやうでした。
(旧字旧仮名) / 石川三四郎(著)
しかしながら其の数多いものがどの程度まで氏を知るよすがとなる事が出来たかと云ふに、それは、多くがその表はれた一面の事実によつたり、或はいゝ加減な揣摩しま臆測によるもの
平塚明子論 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
ここにおいて飛耳長目ひじちょうもくの徒は忽ちわが身辺を揣摩しまして艶事つやごとあるものとなした。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
当時雑説紛々の折柄、伯耆守と共に子思ひの作左が心底も動かずやと、家中の噂にも上りしことあるべく、やましからぬ腹を揣摩しませられて、潔白を傷けんも口惜しと、さてこそ思へば待てぬ作左衛門
大久保湖州 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
またみだりに予の動くことは、巷間こうかんいたずらに噂と新聞紙上をにぎわせて、そなたのためにあらぬ揣摩しま臆測を増させるのみであろう。よってすべてを、この書信に託する。この書信を、予と語るものと思われよ。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
瑠美子の恩師へのせめてもの償いとしても、葉子と清川とがそれだけの物資を提供したであろうことも、庸三の感じに映ったあの時の事象の辻褄つじつまを合わせるのに、まるきり不必要な揣摩しまでもなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
前の「松坂屋寿平治寓宿の於久」と同じ人なることは明である。揣摩しまして言へば、画師村片相覧むらかたあうみは古島と号した。其妻を久と云つた。久が病んで函嶺に来り浴してゐた。木賀の松坂屋は其旅寓である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
などと揣摩しま憶測を逞しゅうしたものである。
ドストエフスキーの如き偉大な作家を産んだ露国の文学に造詣する二葉亭は如何なる人であろうと揣摩しませずにはいられなかった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その主客のいずれの辺にあるか、今日においてこれを揣摩しまするあたわざれども、彼は確かに将軍家定の知遇に感激し、一死を以てこれに酬いんと欲したり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この上君の内部生活を忖度そんたくしたり揣摩しましたりするのは僕のなしうるところではない。それは不可能であるばかりでなく、君をけがすと同時に僕自身を涜す事だ。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
けれども父の本意が何処どこにあるかは、もとより明かに知る機会を与えられていなかった。彼は子として、父の心意を斯様かよう揣摩しまする事を、不徳義とは考えなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
市中の上下は、その惨虐さんぎゃくなる殺人者の何者であるかを揣摩しまして、盛んに役向やくむきを罵りました。役向を罵るばかりでなく、おのおの進んで辻斬退治のために私設の警察を作ろうとしました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
外に種々の説があつても、大抵揣摩しまである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「美妙斎とはドンナ人だろう?」と、当時美妙斎の作を読んだものは作者の人物を揣摩しませずにはおられなかった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
吾人ははたしてしかるや否やを知らず。しかれども目今の現状よりこれを見ればあえてことごとく揣摩しまけんというべからざるがごとしといわざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それを好加減いゝかげん揣摩しまするくせがつくと、それがすわときさまたげになつて、自分じぶん以上いじやう境界きやうがい豫期よきしてたり、さとりけてたり、充分じゆうぶん突込つつこんでくべきところ頓挫とんざ出來できます。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いやしくも事勢を揣摩しまするものは、天子親政の禁ずべからざる、藤田東湖をちて、しこうして後これを知らざるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
この中坂を冠する思案外史は中坂の何辺どこらあたりに住んでる人だろうと揣摩しまし、この思案外史の巻頭の辞を載せた『我楽多文庫』をもやはり中坂に縁があるように思っていた。
それを好加減いいかげん揣摩しまする癖がつくと、それが坐る時の妨になって、自分以上の境界きょうがいを予期して見たり、悟を待ち受けて見たり、充分突込んで行くべきところに頓挫とんざができます。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)