手応てごたえ)” の例文
旧字:手應
海は静かにその小石を受け取りました。兄さんは手応てごたえのない努力に、いきどおりを起す人のように、二度も三度も同じ所作しょさを繰返しました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
吃驚びっくりして、否応なしに面喰つて、押してみたら手応てごたえなくグラリと動く。逃げようかと思つたが思ひ返して揺さぶりながら
群集の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
車輪とレールとの間に、確かな手応てごたえがあった。あのたまらなくハッキリした轢音れきおんが……。佐用媛がいきなりホームからレール目懸めがけて飛びこんだのだ!
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
他の二疋に至っては、パーシウスが、それまでに鍛えられたどんな銘刀を持って来て、何時間ぶっ続けに切りつけようが、少しも手応てごたえはなかったでしょう。
その内、痛えという声がする、かすったようだけれども、手応てごたえがあったから、占めたと、えらくなる途端にお前。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たれを見ても、先ず松陰先生を差向けて見ると、一人として手応てごたえのある人物はない。皆一溜ひとたまりもなく敗亡はいもうする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
東京の自宅うちの方へ、時々無心の手紙などを書いていた壮太郎が、何の手応てごたえもないのに気を腐らして、女から送って来た金を旅費にして、これもこの町を立って行ったのは
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
みんな手応てごたえのあるものを向うに見ているから、崇拝も出来れば、遵奉じゅんぽうも出来るのだ。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ええ、確かに手応てごたえがありましたよ。この駅のホンの一丁程向うの陸橋ブリッジの下です。しかもねえ、機関車おかま車輪わっぱにゃあ、今度ア女の髪の毛が引ッ掛ってましたよ。豚じゃねえんです——」
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
それはいいが、駕籠の中をめがけて刀を突っ込んでも、何の手応てごたえもない。
中里介山の『大菩薩峠』 (新字新仮名) / 三田村鳶魚(著)
自分はお重と喧嘩けんかをするたびに向うが泣いてくれないと手応てごたえがないようで、何だか物足らなかった。自分は平気でたばこを吹かした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もとへ突込つっこんで、革鞄の口をかしりとくわえさせました時、フト柔かな、滑かな、ふっくりと美しいものを、きしりとくびって、引緊ひきしめたと思う手応てごたえがありました。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いずれも、それ相当の手応てごたえがあったのであるが、ここではその詳細を一々述べているいとまがない。
皆目手応てごたえといふものがない。木像だ石臼だがまふくろうだ鮟鱇だ……
けれども不幸にして彼の批評は謡の上手下手でなくって、文章の巧拙に属する話だから、相手にはほとんど手応てごたえがなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小雨こさめの色、孤家ひとつやうちも、媼の姿も、さては炉の中の火さへ淡く、すべ枯野かれのに描かれた、幻の如きあいだに、ポネヒル連発銃の銃身のみ、青くきらめくまで磨ける鏡かと壁をて、弾込たまごめしたのがづツしり手応てごたえ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
葛湯くずゆを練るとき、最初のうちは、さらさらして、はし手応てごたえがないものだ。そこを辛抱しんぼうすると、ようやく粘着ねばりが出て、ぜる手が少し重くなる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
千代子は何の気もつかずに宵子をき起した。するとまるで眠った子を抱えたように、ただ手応てごたえがぐたりとしただけなので、千代子は急に大きな声を出して、宵子さん宵子さんと呼んだ。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何だかかんがえに落ちていっこうつまらなくなった。こんな中学程度の観想かんそうを練りにわざわざ、鏡が池まで来はせぬ。たもとから煙草たばこを出して、寸燐マッチをシュッとる。手応てごたえはあったが火は見えない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
苦しいから爪でもって矢鱈やたらいたが、掻けるものは水ばかりで、掻くとすぐもぐってしまう。仕方がないから後足あとあしで飛び上っておいて、前足で掻いたら、がりりと音がしてわずかに手応てごたえがあった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つるつるすべって少しも手応てごたえがないというじゃないか。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)