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懸物
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かけもの
ふりがな文庫
“
懸物
(
かけもの
)” の例文
もはや本復は
覚束
(
おぼつか
)
ないと、忠利が悟ったとき、長十郎に「
末期
(
まつご
)
が近うなったら、あの不二と書いてある大文字の
懸物
(
かけもの
)
を枕もとにかけてくれ」
阿部一族
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
それから、せんだっての金をこの者に渡してくれろという手紙を書いて、それに猿の
懸物
(
かけもの
)
を添えて、長塚に持たせてやった。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「
等持院殿仁山大居士
(
とうじいんでんにんざんだいこじ
)
」のそれで、
懸物
(
かけもの
)
もまた故人が戦陣のひまにはよく画いていたといわれる尊氏自筆の地蔵絵であった。
私本太平記:13 黒白帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それを後に福羽美静翁が
半折
(
はんせつ
)
に書いて、自ら讃歌を添えて贈られたのが、
懸物
(
かけもの
)
になって残っていました。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
しかし若槻の書斎へはいると、芸術的とか何とかいうのは、こういう暮しだろうという気がするんだ。まず
床
(
とこ
)
の
間
(
ま
)
にはいつ行っても、古い
懸物
(
かけもの
)
が懸っている。花も始終絶やした事はない。
一夕話
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
▼ もっと見る
柏木氏は古物に関する知識をすこぶる豊富に持っていて、先日
懸物
(
かけもの
)
の上部から下っている二本の錦繍の帯に就て、最も合理的な説明をしてくれた。以前懸物は宗教的な意味を持っていた。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
父はそれで
懸物
(
かけもの
)
の講釈を切り上げようとはしなかった。大徳寺がどうの、
黄檗
(
おうばく
)
がどうのと、自分にはまるで興味のない事を説明して聞かせた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
たて二尺、横二尺四、五寸くらい、横幅で紙質も分らないほど古びた
懸物
(
かけもの
)
であったが、それを見ていると、武蔵はふしぎに半日でも飽くということを覚えない。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼の部屋には手紙を
懸物
(
かけもの
)
にした物があった。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
この兄は大の
放蕩
(
ほうとう
)
もので、よく宅の
懸物
(
かけもの
)
や刀剣類を盗み出しては、それを二束三文に売り飛ばすという悪い
癖
(
くせ
)
があった。
硝子戸の中
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
宗湛は
慥
(
しか
)
とそう意志しながら静かに壁間の
懸物
(
かけもの
)
を
外
(
はず
)
して巻き、箱にまで納めて、それを小脇に持った。
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「拭かせたかどうだか知らないが、とにかく向うじゃ、君に困ってるんだ。下宿料の十円や十五円は
懸物
(
かけもの
)
を一
幅
(
ぷく
)
売りゃ、すぐ
浮
(
う
)
いてくるって云ってたぜ」
坊っちゃん
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
……最前もふと、
床
(
とこ
)
のお
懸物
(
かけもの
)
を拝すにつけ、ふだんのお心がけも
床
(
ゆか
)
しゅう覚えていましたわえ
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
君に
懸物
(
かけもの
)
や
骨董
(
こっとう
)
を売りつけて、商売にしようと思ってたところが、君が取り合わないで
儲
(
もう
)
けがないものだから、あんな作りごとをこしらえて
胡魔化
(
ごまか
)
したのだ。
坊っちゃん
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
土蔵から道具類の出し
納
(
い
)
れも一仕事だし、
懸物
(
かけもの
)
の掛け代えとか、茶席の
設
(
しつ
)
らえとか、料理の工夫とか、当日の接待とか、ふつうの
閑人
(
ひまじん
)
がやるにしても、並大抵のものではない。
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
玄関にも靴と
下駄
(
げた
)
が一足ずつあった。彼はこの間と違って日本間の方へ案内された。そこは十畳ほどの広い座敷で、長い床に大きな
懸物
(
かけもの
)
が二幅掛かっていた。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
何という特徴もない十二畳部屋であったが、ふと、床間の壁を見ると、そこに掛けてあった大幅の
懸物
(
かけもの
)
が下に落ちていて、茶席の
瓦燈口
(
かとうぐち
)
に似た切抜穴が、洞然と暗い口を開いている——
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
近頃ふと思い出して、ああしておいては転宅の際などにどこへ散逸するかも知れないから、今のうちに表具屋へやって
懸物
(
かけもの
)
にでも仕立てさせようと云う気が起った。
子規の画
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
近頃
不圖
(
ふと
)
思ひ出して、あゝして置いては轉宅の際などに何處へ散逸するかも知れないから、今のうちに表具屋へ
遣
(
や
)
つて
懸物
(
かけもの
)
にでも仕立てさせやうと云ふ氣が起つた。
子規の画
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
懸物
(
かけもの
)
でも額でもすぐ人の眼につくような、書斎の装飾が一つ欲しいと思って、見廻していると、
色摺
(
いろずり
)
の西洋の女の
画
(
え
)
が、
埃
(
ほこり
)
だらけになって、横に立て
懸
(
か
)
けてあった。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
敬太郎はやむを得ず茶色になった古そうな
懸物
(
かけもの
)
の
価額
(
ねだん
)
を想像したり、手焙の
縁
(
ふち
)
を
撫
(
な
)
で廻したり、あるいは
袴
(
はかま
)
の
膝
(
ひざ
)
へきちりと両手を乗せて一人改たまって見たりした。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
自分は父が筆を動かす間、
床
(
とこ
)
に活けた黄菊だのその
後
(
うしろ
)
にある
懸物
(
かけもの
)
だのを心のうちで品評していた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
袋は
能装束
(
のうしょうぞく
)
の切れ端か、
懸物
(
かけもの
)
の表具の余りで
拵
(
こし
)
らえたらしく、金の糸が所々に光っているけれども、だいぶ古いものと見えて、
手擦
(
てずれ
)
と時代のため、派手な色を全く失っていた。
彼岸過迄
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
老人はこの
模糊
(
もこ
)
たる
唐画
(
とうが
)
の古蹟に
対
(
むか
)
って、生き過ぎたと思うくらいに住み古した世の中を忘れてしまう。ある時は
懸物
(
かけもの
)
をじっと見つめながら、
煙草
(
たばこ
)
を吹かす。または御茶を飲む。
永日小品
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
新らしい天井と、新らしい柱と、新らしい障子を見つめるに堪えなかった。真白な絹に書いた大きな字の
懸物
(
かけもの
)
には最も堪えなかった。ああ早く夜が明けてくれればいいのにと思った。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
二人は
懸物
(
かけもの
)
を見て、当時を思い出しながら子供らしく笑った。岡田はいつまでも窓に腰をかけて話を続ける風に見えた。自分も
襯衣
(
シャツ
)
に
洋袴
(
ズボン
)
だけになってそこに
寝転
(
ねころ
)
びながら相手になった。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
家は
田舎
(
いなか
)
にありましたけれども、二
里
(
り
)
ばかり隔たった
市
(
し
)
、——その市には叔父が住んでいたのです、——その市から時々道具屋が
懸物
(
かけもの
)
だの、
香炉
(
こうろ
)
だのを持って、わざわざ父に見せに来ました。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そうして
懸物
(
かけもの
)
の前に
独
(
ひと
)
り
蹲踞
(
うずく
)
まって、黙然と時を過すのを
楽
(
たのしみ
)
とした。今でも
玩具箱
(
おもちゃばこ
)
を
引繰
(
ひっく
)
り返したように色彩の乱調な芝居を見るよりも、自分の気に入った画に対している方が
遥
(
はる
)
かに心持が好い。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
懸物
(
かけもの
)
が見える。行灯が見える。
畳
(
たたみ
)
が見える。和尚の
薬缶頭
(
やかんあたま
)
がありありと見える。
鰐口
(
わにぐち
)
を
開
(
あ
)
いて
嘲笑
(
あざわら
)
った声まで聞える。
怪
(
け
)
しからん坊主だ。どうしてもあの薬缶を首にしなくてはならん。悟ってやる。
夢十夜
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
懸
常用漢字
中学
部首:⼼
20画
物
常用漢字
小3
部首:⽜
8画
“懸”で始まる語句
懸
懸念
懸想
懸隔
懸崖
懸合
懸命
懸引
懸声
懸値