愛憐あいれん)” の例文
慈悲そのものの権化ごんげたる観音さまは、愛憐あいれんの御手で、私どもを抱きとってくださるから、私どもには、なんの不安も恐れもないのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
と鬼をあざむく文治もそゞろに愛憐あいれんの涙に暮れて、お町をかゝえたまゝ暫く立竦たちすくんで居りまする。お町はようやく気も落着いたと見えまして
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仕方あるにもかかわらず、こっちの好意をもって下げるのである。同類に対する愛憐あいれんの念より生ずる真正の御辞儀おじぎである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さまでに世の中の事というものが分らない生立おいたちが、馴染なじむに従って知れれば知れるほど、梓は愛憐あいれんの情の深きを加えた。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たよりない幼いものに対する愛憐あいれんの情の源泉がやはり本能的なものだということが、よくのみ込めるような気がする。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼の聡明そうめいな物象の把握力、日本人特異の単純化と図案化。それに何という愛憐あいれんの深い美の象徴の仕方でしょう。私はいつも彼の画を見て惚々ほれぼれとします。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
のみならず人間のうちなる自然も、人間の中なる人間に愛憐あいれんを有するものにあらず。大震と猛火とは東京市民に日比谷ひびや公園の池に遊べる鶴と家鴨あひるとをくらはしめたり。
それよりも、部屋で泣伏しているおゆうの可憐いじらしい姿に、心のかるる房吉は、やがてそのそばへ寄って、優しいことばをかけてやりたかった。妊娠みもちだと云うことが、一層男の愛憐あいれんそそった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
半三郎はごく控えめな表現で、菊千代に対する同情と愛憐あいれんの気持を語った。
菊千代抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こういううちに朝顔を愛憐あいれんする心持が強く読者の心に響きます。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
愛憐あいれんの情にえざるごとく)あなた様のこのお変わりようは!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
すなわ鄭子ていし九尾きゅうびきつねいて愛憐あいれんするがごとくなるを致す。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は愛憐あいれんの情に胸がいっぱいになった。
文治は吉藏が懴悔話を聞いて、そゞろに愛憐あいれんの情を起し、共に涙に暮れて居りましたが、二度目に来た剣術遣いと聞いて
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其証拠を又のあたりに見た時、かれ愛憐あいれんの情と気の毒の念に堪えなかつた。さうして自己を悪漢の如くに呵責かしやくした。思ふ事は全く云ひそびれて仕舞つた。帰るとき
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかりとはいへども、雁金かりがね可懷なつかしきず、牡鹿さをしか可哀あはれさず。かぶと愛憐あいれんめ、よろひ情懷じやうくわいいだく。明星みやうじやうと、太白星ゆふつゞと、すなはち意氣いきらすとき何事なにごとぞ、いたづら銃聲じうせいあり。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
少くともかかる葛藤かっとうを母に惹起じゃっきさせる愛憐あいれん至苦のむす子が恨めて仕方がなかった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
成経 (和睦わぼく愛憐あいれんの表情をもって)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
その証拠を又のあたりに見た時、彼は愛憐あいれんの情と気の毒の念に堪えなかった。そうして自己を悪漢の如くに呵責かしゃくした。思う事は全く云いそびれてしまった。帰るとき
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)