心根こころね)” の例文
牛女うしおんなが、こうもりになってきて、子供こどもうえまもるんだ。」と、そのやさしい、じょうふかい、心根こころねあわれにおもったのであります。
牛女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「そちこのご諚拒んだが最後、謀反の心根こころねいまだ消えずと、捕えられて縛り首! しかも頼兼、国長は、運命変わらず討たれるのじゃ!」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だが、万吉にも、弦之丞へそれと口を切ることができないので、ただ、お綱の心根こころねを、蔭で、不愍ふびんと思いやっているばかり……。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なれど「れぷろぼす」は、性得しやうとく心根こころねのやさしいものでおぢやれば、山ずまひのそま猟夫かりうどは元より、往来の旅人にも害を加へたと申す事はおりない。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし木村といえば、古藤のいう事などを聞いていると葉子もさすがにその心根こころねを思いやらずにはいられなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
赤猪子あかいのこのどこまでも正直しょうじき心根こころねをおほめになり、ご自分のために、とうとう一生およめにも行かないで過ごしたことをしみじみおあわれみになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
老人は、そんな工合に北の方から優しい言葉で慰められると、一層北の方の心根こころねがいとおしくなるのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
伯父は幾分いくぶんか眉をひそめてその思慮無はしたなきをうとんずる色あれども伯母なる人は親身しんみめいとてその心根こころねを哀れに思い
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
十一人の中でお前の名をかいたのは、この弥助一人だと思うと、俺あ彼奴あいつ等の心根こころねが、全くわからねえや
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
彼の情有なさけあことばを聞けば、身をもらるるやうに覚ゆるなり。宮は彼の優き心根こころねを見ることを恐れたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
年よりも早く老け込んでしまうような生活を送ってきたのだろう。お婆さんの顔を見ると、その声をきくと、お婆さんがやさしい善良な心根こころねの人だということがすぐわかる。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
みずから一身をなげうつ冒険にのりだしたことも、おかした罪の万分の一でも、つぐなおうとしたのだ、こう思うと一同は次郎の心根こころねがいじらしくもあり、かわいらしくもある。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
兄のため、家のためを思うて、女の一心でこれまで説きに来たものとあれば、その心根こころねに対しても、武士道の情けとやらで、花を持たして帰すべきはずの竜之助の立場でありましょう。
疑問の人物グレンジル伯は十六世紀の昔、国内の心根こころねの曲った貴族の間においても、剛勇と乱心とたけだけしい奸智とで彼等を縮みあがらせた種族の最後の代表者ともいうべき男であった。
いわば月並つきなみの衣類なり所持品です。それがうまくこうを奏して隅田すみだ氏の妹と間違えられたのです。顔面のもろくだけたのは、神も夫人の心根こころねあわれみ給いてのことでしょう。僕は復讐を誓いました。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それにしても、秋作氏は槇子のこの美しい心根こころねを知っているかしら。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その生きるための空気については、あるのが当然だと思っていまだかつて心遣こころづかいさえした事がない。その心根こころねただすと、吾らが生れる以上、空気は無ければならないはずだぐらいに観じているらしい。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また異らぬおもひびと、わが心根こころねや悟りてし。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
烏、おまへのやさしい心根こころね
宗円にもその心根こころねは、胸の痛むほど察しられはしたが、わが子の使命と、結果の重大さを思うと、子や嫁などは眼の隅にも入れてはならないように意志された。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは情けなくも激しく強くなり増さるばかりだった。もう自分で自分の心根こころね憫然びんぜんに思ってそぞろに涙を流して、自らを慰めるという余裕すらなくなってしまった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
このしおらしき心根こころねから、おのずと丹後守に仕える心も振舞ふるまいも神妙になる——もともと竜之助はいやしく教育された身ではない、どこかには人に捨てられぬところが残っているのであろう
「妹の心根こころねを思いやってものう」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
金蔵はお豊の胸倉むなぐらをはなして、その手で滝のように落ちる自分の涙を拭きました。無体むたい恋慕れんぼながら真剣である、怖ろしさの極みであるけれども、その心根こころねを察してやれば不憫ふびんでもある。