わた)” の例文
人となり聰明にして、目にわたれば口にみ、耳にるれば心にしるす。すなはち阿禮に勅語して、帝皇の日繼ひつぎと先代の舊辭とを誦み習はしめたまひき。
北インド咀叉始羅たつさしら国の北界より信度しんど河を渡り東南に行く事二百余里大石門をわたる、昔摩訶薩埵まかさった王子ここにて身を投げて餓えたる烏菟おとを飼えりとある
楽しそうな声が水をわたって聞えるにつけて、おれもの座敷で飲んだことがある、あの桟橋に小歌が立って居てそれを二階から顔見合せて笑ったことがある
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
三日みつかにしてのちへいろくす。病者びやうしやみなかんことをもとめ、あらそふるつて、でてこれめにたたかひおもむけり。しんこれき、めにり、えんこれき、みづわたつてく。
かわは長く流れて、向山むこうやまの松風静かにわたところ、天神橋の欄干にもたれて、うとうとと交睫まどろ漢子おのこあり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清くさびしい声である。風のわたらぬこずえから黄な葉がはらはらと赤き衣にかかりて、池の面に落ちる。静かな影がちょと動いて、又元に還る。ウィリアムは茫然ぼうぜんとしてたたずむ。
幻影の盾 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし果実が下を向いたまま開いて種子が落ちたのではその行きわたる範囲が狭いので、そこで上を向いて開裂し種子を成るべく広い面積地に散布させようというこの自然の工夫は確かに一顧の価がある。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
仮サズ/卅歳辛勤一空ニ付ス/君ヤ夙ニ克家ノ子リ/七齢李賀声已ニたかシ/吾嘗テ西遊シテ君ガ舎ニ寓ス/吾未ダ弱冠ナラズ君猶童タリ/対床一堂講習ヲ事トシ/灯火旦ニ達シ三冬ヲわたル/ああ吾産ヲ破リテ何事ヲカ成サン/爾来落托十年ノうち/江湖酒ヲ載セテ薄倖ニ甘ンジ/狂名留マリテ煙花ノ叢ニ在リ/君亦郷閭ノ誉ヲ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここに千引のいはをその黄泉比良坂よもつひらさかに引きへて、その石を中に置きて、おのもおのもき立たして、事戸ことどわたす時二〇に、伊耶那美の命のりたまはく
陰々として鐘声のわたるを聞けり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また問ひたまはく「みともに仕へまつらむや」と問はしければ、答へて曰はく「仕へまつらむ」とまをしき。かれここにさをを指しわたして、その御船に引き入れて、槁根津日子さをねつひこといふ名を賜ひき。