小作こづく)” の例文
敬太郎けいたろうはこう観察して、そっと餡転餅屋あんころもちやに似た差掛の奥をのぞいて見ると、小作こづくりな婆さんがたった一人裁縫しごとをしていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
薄暗うすぐらつるしランプの光がせこけた小作こづくりの身体からだをば猶更なほさらけて見せるので、ふいとれがむかし立派りつぱな質屋の可愛かあいらしい箱入娘はこいりむすめだつたのかと思ふと
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
関白忠通卿はいつもの優しい笑顔を見せて、今ここへはいって来たひと癖ありそうな小作こづくりのやせ法師を迎えた。法師は少納言通憲みちのり入道信西しんぜいであった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『東京は流石に暑い。腕車くるまの上で汗が出たから喃。』と言つて突然いきなり羽織を脱いで投げようとすると、三十六七の小作こづくりな内儀おかみさんらしい人がそれを受取つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
カイアヹエ君は偉大な体格をして態度の沈着な男、これに反してマス君は日本で言へば正宗白鳥はくてう君の様に優形やさがた小作こづくりの男で、一見神経質な、動作の軽捷けいせふな文人である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
波紋はもん次第しだいおおきくびたささやかななみを、小枝こえださきでかきせながら、じっとみずおも見詰みつめていたのは、四十五のとしよりは十ねんわかえる、五しゃくたない小作こづくりの春信はるのぶであった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
三十八九、やがて四十年輩ねんぱい小作こづくりの愛想の良い男が入つて來ました。
小作こづくりな女の
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
けれどもその二十年後の今、自分の眼の前に現れた小作こづくりな老師は、二十年前と大して変ってはいなかった。
初秋の一日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
権七という中間はわたくしも知っています。上州の生れだとか聞きましたが、小作こづくりの小粋な男でした。あれが御主人の奥さんと夫婦になって……。おまけに奥さんを
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
島田しまだつて弱々しく両肩りやうかたさがつた小作こづくりの姿すがたと、口尻くちじりのしまつた円顔まるがほ、十六七の同じやうな年頃としごろとが、長吉ちやうきちをして瞬間しゆんかんあやふくベンチから飛び立たせやうとしたほどいとのことを連想せしめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
青年は小作こづくりの面長おもながたちで、蒼白あおじろい額の下に、度の高そうな眼鏡を光らしていた。もっとも著るしく見えたのは、彼の近眼よりも、彼の薄黒い口髭くちひげよりも、彼の穿いていた袴であった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その声の切れるか切れぬうちに一人の将軍が挙手の礼を施しながら余の前を通り過ぎた。色のけた、胡麻塩髯ごましおひげ小作こづくりな人である。左右の人は将軍のあとを見送りながらまた万歳をとなえる。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)