小体こてい)” の例文
旧字:小體
木口のよい建物も、小体こていに落着きよく造られてあった。笹村はつがのつるつるした縁の板敷きへ出て、心持よさそうに庭を眺めなどしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小児こどもは二人あるし、うちは大勢だし、小体こていに暮していて、別に女中っても居ないんですもの、おりから何から、みんな、お稲ちゃんがしたんだわ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どうか小金も有るやうな話で、鴫沢隆三しぎさわりゆうぞうと申して、ぢき隣町となりちように居りまするが、ごく手堅く小体こていつてをるのでございます
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
大黒屋という、小体こていながら表通りに店を張って、数代叩き上げた内福な呉服屋、番頭の佐吉は、内外一切の采配を揮っている、五十年配の白鼠しろねずみだったのです。
それでも幾らか貯蓄たくわえもあり、年金も貰えるので、小体こていに暮らしてゆけば別に困るという程でもありませんでしたが、これから無職で暮らして行こうとするには
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
向いは桃畑で、街燈の光が剪定棚の竹や、下の土をしんと照し出している。同じような生垣の小体こていな門が二つ並んでいる右の方を、朝子は開けた。高く鈴の音がした。
一本の花 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おでんやはなべの廻りに真黒に人が立ち、氷やは腰をかける席がないほどの繁昌はんじょうだ。氷やといっても今のように小体こていな店ではない。なかなか広い店で、巾の広い牀几しょうぎが沢山並んでいた。
旧聞日本橋:17 牢屋の原 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
当てがわれただけの食事ものでは、ややともすれば不足がちなもの……小体こていの家ではないことだが、奉公人を使う家庭となると、台所のきまりがあって、奉公人の三、四人も使っておれば
しかし、印刷とか、用紙とか、販売とかの雑務となったら、それはいっさい僕におまかせなさい! 僕が裏の裏まで承知していますから! はじめは小体こていにやって、大きく仕上げるんですな。
玄関の二畳、勝手につづく茶の間の六畳、狭い庭をひかえた奥の八畳という小体こていな住居だが、長火鉢、茶箪笥、鼠入らず、湯こぼしと、品よく、きちんとして、居なりで用が足りるようになっている。
虹の橋 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
田舎の町で知っている女が浅草の方で化粧品屋を出している、その女に品物の仕入れ方を教わって、同じ店を小体こていに出して見ようという考えであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小体こていな暮しで共稼ぎ、使歩行つかいあるきやら草取やらに雇われて参るのが、かせぎかえりと見えまして、手甲脚絆てっこうきゃはんで、貴方、鎌を提げましたなり、ちょこちょこと寄りまして
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茶汲ちゃくみ女は三人、小体こていな暮しですが、銅壺どうこに往来の人間の顔が映ろうという綺麗事に客を呼んで横網よこあみに貸家が三軒と、洒落しゃれた住宅まで建てる勢いだったのです。
田町たまち今戸いまど辺に五、六軒の家作があるのを頼りに、小体こていのしもた家暮らしをすることになりました。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あるじ夫婦をあはせて焼亡しようぼうせし鰐淵わにぶちが居宅は、さるほど貫一の手にりてその跡に改築せられぬ、有形ありがたよりは小体こていに、質素を旨としたれどもつぱさきの構造をうつしてたがはざらんとつとめしに似たり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
弥惣の家は小体こていながら裕福そうで、紅屋の支配人と言っても恥しくないものでしたが、検屍が済んで土蔵から死骸を移したばかりなので、上を下への混雑です。
切りひらいた地面に二むね四軒の小体こていな家が、ようやく壁が乾きかかったばかりで、裏には鉋屑かんなくずなどが、雨にれて石炭殻を敷いた湿々じめじめする地面にへばり着いていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小体こていに暮らしてはいますけれど、ほかに家作かさくなども持っていて、なかなか内福だということです。
異妖編 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もうその時分は、大旦那がお亡くなんなすったあとで、御新姐ごしんぞさんと今のお嬢さんとお二人、小体こていに絵草紙屋をしておいでなすった。そこでもお前火災にお逢いなすったんだろうじゃないか。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お鳥は花屋敷前の暗い木立ちのなかを脱けて、露店ほしみせの出ている通りを突っ切ると、やがて浅黄色の旗の出ている、板塀囲いの小体こていな家の前まで来てお庄を振りかえった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
向柳原の水本賀奈女かなめの家というのは、町の懐ろの中へしまい込んだような深い路地の奥で、小体こていながら裕福に暮していたらしく、みがき抜いた格子にも、一つ一つの調度にも
町の中心へ来て、彼は小懐かしそうに四辺あたりを見廻した。そして小体こていなある旅館の前に立ち止まると
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
御家人ごけにん安旗本などを相手に金を廻し、小体こていながらなかなか裕福に暮しておりました。
つまり好いパトロンがついていない限り、商売は小体こていに基礎工事から始めるよりほかなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今戸いまど小体こていな小間物屋をしていますよ。妹とたった二人で」
錦糸堀でも、裏に小体こていな家を一軒、その当座時々からだを休めに来る銀子の芸者姿が、近所に目立たないようにと都合してあるのだったが、今はそれも妹たちが占領していた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家は松の家と裏の路次づたいに往来のできる、今まで置き家であった小体こていな二階屋であった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)