富家ふうか)” の例文
神前寺内に立てる樹も富家ふうかの庭にわれし樹も、声振り絞って泣き悲しみ、見る見る大地の髪の毛は恐怖に一々竪立じゅりつなし、柳は倒れ竹は割るる折しも
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
長庵と改めてあさからばんまであては無れどいそがぶり歩行あるき廻りければ相應に病家びやうかも出來たるにぞ長庵今は己れ名醫めいいにでも成し心にて辯舌べんぜつ奸計かんけいを以て富家ふうかより金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
忠兵衛が文化七年に紙問屋かみどいや山一やまいちの女くみをめとった時、牧は二十一歳になっていた。そこへ十八歳ばかりのくみは来たのである。くみは富家ふうか懐子ふところごで、性質が温和であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
昨日きのう富家ふうかの門を守りて、くびに真鍮の輪をかけし身の、今日は喪家そうかとなりはてて、いぬるにとやなく食するに肉なく、は辻堂の床下ゆかしたに雨露をしのいで、無躾ぶしつけなる土豚もぐらに驚かされ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
石川河のかわらに近く庵室あんしつをしつらえさせて、昔物語の姫君のように、下げ髪に几帳きちょうを立て、そこに冥想めいそうし、読書するという富家ふうかひとは、石の上露子とも石河の夕千鳥とも名乗って
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
富家ふうかいのこあぶらえ、見かけは強壮らしいが、山野の気性を失って、いつの間にか鈍重になっている。——我には、西境北辺に、連年戦うて、艱苦のきたえをうけた軽捷けいしょうの兵のみがある。何を
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふく姿すがた高下かうげなくこゝろへだてなくかきにせめぐ同胞はらからはづかしきまでおもへばおもはるゝみづうをきみさまくはなんとせんイヤわれこそは大事だいじなれとたのみにしつたのまれつまつこずゑふぢ花房はなぶさかゝる主從しゆうじうなかまたとりや梨本なしもと何某なにがしといふ富家ふうかむすめ優子いうこばるゝ容貌きりやうよし色白いろじろほそおもてにしてまゆかすみ遠山とほやまがたはなといはゞと比喩たとへ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)