妻戸つまど)” の例文
やゝありて『誰かある』と呼ぶ聲す、那方あなたなる廊下の妻戸つまどけて徐ろに出で來りたる立烏帽子に布衣着たる侍は齋藤瀧口なり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
清盛は、さっきから、妻戸つまどの口で、両足を、縁さきへほうり出し、上半身だけ室内に入れて、仰向けに寝ころんでいた。
東側の妻戸つまどの外に源氏を立たせて、小君自身は縁を一回りしてから、南のすみの座敷の外から元気よくたたいて戸を上げさせて中へはいった。女房が
源氏物語:03 空蝉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かの音はこの妻戸つまどうしろから出るようである。戸の下は二寸ほどいていたがそこには何も見えなかった。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
にいよいよ動悸どうきたかく、みしめるそでなみだこぼれて、令孃ひめ暫時しばらくうちしてきけるが、吹入ふきい夜風よかぜたがたましひか、あくがるヽこヽろ此處こヽたへがたく、しづかにつて妻戸つまどせば
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
破れかかった妻戸つまどのかげに、その夕べも、女は昼間から空にほのかにかかっていたほそい月をぼんやり眺めているうちに、いつかやみにまぎれながら殆どあるかないかに臥せっていた。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
妻戸つまどと壁とで仕切られたその部屋の中は、大輪の花のような嵩張かさばった衣裳を着けている上﨟の体をれるために十分なゆとりが取ってあって、茶の間程の面積に一杯に畳が敷き詰めてあるので
二人は妻戸つまど口から裏へ出た。
部屋のさかいは、板仕切りであり、入口には、古布をとばりとし、妻戸つまどの代わりに、むしろなど、垂れてある。
かの音は此妻戸つまどうしろから出る樣である。戸の下は二寸程いてゐたが其處には何も見えなかつた。
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
折柄をりからすぎ妻戸つまどを徐ろに押しくる音す、瀧口かうべを擧げ、ともしびし向けて何者と打見やれば、足助二郎重景なり。はしなくは進まず、かうべを垂れてしをれ出でたる有樣は仔細ありげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かるヽこヽろちたきものと、决心けつしん此處こヽりし今宵こよひめては妻戸つまどごしのおこゑきヽたく、とがめられんつみわすれて此處こヽしのそでにすがりてさとしなげヽば、これをはろ勇氣ゆうきいま
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
決して、客らしい扱いではないが、召使たちから、一部の建物のうちに、まず上がることをゆるされ、草鞋わらじなど解きかけていると、中庭を隔てたあなたの妻戸つまどの蔭で
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
めよ。……誰ぞ、そこの妻戸つまどを閉めぬか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)