奥行おくゆき)” の例文
旧字:奧行
ままになる位置ならば、浅野大学の取立てられるように、内蔵助と共に手伝っても遣りたい——と云った千坂兵部のふかい奥行おくゆきを考えると
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
行者のうちは五条の天神てんじんの裏通りで、表構おもてがまへはほど広くもないが、奥行おくゆきのひどく深いうちであるので、この頃の雨の日には一層うす暗く感じられた。
例えば城内の支那人街の店へはいって見ると、間口まぐちが狭くて薄汚く見えるにもかかわらず、奥行おくゆきはずっと深く、そして商品が店一杯に詰っている感じであった。
満洲通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
壁は刑事の手に依ってドアの如く左右に押し開けられ、忽ち間口まぐちけん奥行おくゆき三尺ばかりの押入れが現われた。その押入れの中央に仏壇ぶつだんの様に設置してある大冷蔵庫。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一仕切ひとしきりつと、発作ほつさは次第におさまつた。あといつもの通りしづかな、しとやかな、奥行おくゆきのある、うつくしい女になつた。眉のあたりが殊にはれ/″\しく見えた。其時代助は
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それからわたくし神様かみさまみちびかれて、あちこちあるいてて、すっかり岩屋いわや内外ないがい模様もようることができました。岩屋いわやなりおおきなもので、たかさとはばさはおよそそ三四けん奥行おくゆきは十けんあまりもございましょうか。
陰影いんえい奥行おくゆき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
間口まぐち奥行おくゆきは広い。そして、真四角な暗闇くらやみと板床であること。いつ眼をさましてみても、少しの変りもない。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
入ってみると、そこは何の変哲へんてつもないカフェだった。広いと思ったのは、表だけで、莫迦ばか奥行おくゆきのない家だった。帆村は先登せんとうに立って、ノコノコ三階まで上った。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もともと頭の中でむやみに色沢つやを着けて奥行おくゆきのあるように組み立てるほどの関係でもあるまいし、あったところがひとの事を余計なおせっかいだと、自分で自分をあざけりながら
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だから、あらゆる方面に向つて、奥行おくゆきけづつて、一等国丈の間口まぐちつちまつた。なまじい張れるから、なほ悲惨ひさんなものだ。うしと競争をするかへると同じ事で、もう君、はらけるよ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
伸びあがって光枝が見ていると、その額はずいぶん大した彫物細工ほりものざいくであった。額の奥から、一番前に出ている陽明門のひさしまで、奥行おくゆきが二寸あまりもあって、極めて繊細なほりがなされてあった。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その奥行おくゆきをかなり深く見ている者は、内蔵助よりほかになかった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大丈夫だいじょうぶかいと赤シャツは念をした。どこまで女らしいんだか奥行おくゆきがわからない。文学士なんて、みんなあんな連中ならつまらんものだ。辻褄つじつまの合わない、論理に欠けた注文をして恬然てんぜんとしている。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのほうが命に奥行おくゆきがあるような気がする。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥行おくゆきの長い感じを起させる顔である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)