むこ)” の例文
抽斎の高祖父輔之は男子がなくて歿したので、十歳になるむすめ登勢にむこを取ったのが為隣である。為隣は登勢の人と成らぬうちに歿した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かみの氏子、堀の内にてよめをむかへ又はむこをとりたるにも、神勅しんちよくとてむこに水をたまはる、これを花水祝はなみづいはひといふ。毎年正月十五日の神㕝じんじ也。
ほんとうにこんな目出たい事には、もう二度とはえませんね。ただ私は娘やむこの、苦しそうな嘘を聞いているのが、それはそれは苦労でしたよ。
奇遇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むこは卑しき農夫なりき。よめは貧しき家の子ながら、美しき少女をとめなりき。侯爵の殿は婚禮のむしろにて新婦が踊の相手となり、宵の間にしばし花園に出でよと誘ひ給へり。
あるいは又松尾の部落の山畑に、むこと二人で畑打はたうちをしていた一老翁は、不意に前方のヒシ(崖)の上に、見事なお曼陀羅まんだらの懸かったのを見て、「やれ有難や松※尾の薬師」と叫んだ。
幻覚の実験 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大伴の家のは、表向きむこどりさえして居ねば、子があっても、斎き姫は勤まる、と言う定めであった。今の阪上郎女さかのうえのいらつめは、二人の女子おみなごを持って、やはり斎き姫である。此は、うっかり出来ない。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
むこを置き去りにして情夫の後を追いかけて来たのだということでした。
が、そうやって世の中から殆ど隔絶しているうちに、その中務大輔のところでは暮らし向きの悪くなってゆく一方であることは、毎日女のもとに通って来るむこにも漸くはっきりと分かるようになった。
曠野 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
笛ひびき花の輿こしゆくあとの馬車中折なかをれを著る三尺のむこ
月に親しく天帝のむこになりたしな 才丸さいまろ
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あんずるに、むこに水をそゝぐ事は、男の阳火やうくわに女のいんの水をあぶせて子をあらしむるの咒事まじなひにて、つまの火をとむるといふ祝事しゆくじ也。
お母様の仰ゃるには、おお方そんな事を言うのは、男女同権とかいう話と同じ筋の話だろう。昔から町家の娘には、見合でむこをことわるということがあった。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
公子はわが昔の恩人のむこにして、フランチエスカの君の夫なり。我を以て不義の人となし、我に訣絶けつぜつの書を贈れる人のうからなり。公子。こゝにて逢はんとは思ひ掛けざりき。
しかしむすめはどうなりましたやら、むこことはあきらめましても、これだけは心配しんぱいでなりません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
とりとてむこに水をあぶする者二人、副取そへとりといふもの二人、おの/\たすきひきゆひりゝしげにいでたつ。むこはゆかた細帯にてをどりのきたるをまつ。
ついで謙助も昌平黌出役になったので、藩の名跡は安政四年に中村が須磨子に生ませた長女糸に、高橋圭三郎けいざぶろうというむこを取って立てた。しかしこの夫婦は早く亡くなった。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし娘はどうなりましたやら、むこの事はあきらめましても、これだけは心配でなりません。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし妙なことには、その家にお兄いさんというのがいて、余程お人好と見えて、お麗さんに家来のように使われている。それが実はむこ養子に来たものだということである。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かたがたお住は四十九日でもすんだら、お民にむこを当がつた上、倅のゐた時と同じやうに働いて貰はうと思つてゐた。壻には仁太郎の従弟いとこに当る与吉を貰へばとも思つてゐた。
一塊の土 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
吾が同郡どうぐんをかまち旧家きうか村山藤左ヱ門はむこの兄なり。此家に先代より秘蔵ひさうする亀の化石くわせきあり、つたへていふ、ちか山間さんかんの土中より掘得ほりえしといふ、じつに化石の奇品きひんなり、こゝあげ弄石家ろうせきかかんまつ
こんな論をする事なら、同じ論法で何もかも性欲の発揮にしてしまうことが出来よう。宗教などは性欲として説明することが最も容易である。基督キリストむこだというのは普通である。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
むこばかりか、むすめまでも、………(あとりて言葉ことばなし。)
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
支配人某が世話をして、小谷村原文平の二男辰之助を迎へて、長女すみのむこにした。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
前に悪いむこを取って騙された時なんぞは、近所の人に面目めんぼくないとは思っても、親子共胸の底にはきょくかれに在りと云う心持があったので、互に話をし合うには、少しも遠慮はしなかった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
このむこは或は眞志屋の一族長島氏の人であつたのではなからうか。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)