壁土かべつち)” の例文
「しかしこの芝の上を見給え。こんなに壁土かべつちも落ちているだろう。これは君、震災しんさいの時に落ちたままになっているのに違いないよ。」
悠々荘 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それは崩壊してゆくガレージの壁をとった写真だったが、その壊れゆく壁土かべつちのそばになんとも奇妙な二つの輪がうつっていた。かなり太い環であった。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
頭の往った方はとこになっているが、そこも亀裂ひびの入ったきいろな壁土かべつちわびしそうに見えるばかりで、軸らしい物もない。見た処どうしても空家としか思われない。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いきほひつて、わたし夢中むちう駈上かけあがつて、懷中電燈くわいちうでんとうあかりりて、戸袋とぶくろたなから、觀世音くわんぜおん塑像そざう一體いつたい懷中くわいちうし、つくゑしたを、壁土かべつちなかさぐつて、なきちゝつてくれた
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一方では、まだ崩し残りの壁など崩して居る。時々壁土かべつちどうと落ちて、ぱっと汚ない煙をあげる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たゞし人目ひとめがある。大道だいだう持出もちだして、一杯いつぱいでもあるまいから、土間どまはひつて、かまちうづたかくづれつんだ壁土かべつちなかに、あれをよ、きのこえたやうなびんから、逃腰にげごしで、茶碗ちやわんあふつた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
壁土かべつちのようなものがバラバラと落ち、ガラガラと屋根瓦やねがわらが墜落すると、そのあとから、冷え冷えとする夜気やきが入ってきた。漢青年はそのあなからヒラリと外に飛び出したのだった。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
をつけてるのだから、臺所だいどころ、ものおきあらしても、めつたにたゝみませないのに、大地震おほぢしん一搖ひとゆれで、家中うちぢうあなだらけ、隙間すきまだらけで、我家わがや二階にかいでさへ、壁土かべつち塵埃ほこりすゝと、ふすま障子しやうじほねだらけな
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)