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かべつち
此の
勢に
乘つて、
私は
夢中で
駈上つて、
懷中電燈の
燈を
借りて、
戸袋の
棚から、
觀世音の
塑像を
一體、
懷中し、
机の
下を、
壁土の
中を
探つて、なき
父が
彫つてくれた
一方では、まだ崩し残りの壁など崩して居る。時々
壁土が
撞と落ちて、ぱっと汚ない煙をあげる。
たゞし
人目がある。
大道へ
持出して、
一杯でもあるまいから、
土間へ
入つて、
框に
堆く
崩れつんだ
壁土の
中に、あれを
見よ、
蕈の
生えたやうな
瓶から、
逃腰で、
茶碗で
呷つた。