図体ずうたい)” の例文
貴女あなたがそんな事をお言いなすっちゃ私は薬がめなく成ります。この図体ずうたいで、第一、宝丹を舐めようと云う柄じゃないんですもの。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
英夫を見くびって躍りかかって来た相手だけに、背負投はあざやかにきまって趙のこうしのような図体ずうたいは、もんどりうってはげしく鉄板の上を叩き
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
図体ずうたいの大きいわりに、気の弱いパン屋のおやじさんが、半分かじったパンを手にもったまま、泣きだしそうな声をだした。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その骨組が巌丈で、大きな図体ずうたいは、駈競かけくらべをする馬などと相対せしめるなら、その心持が勿体もったいないほど違うのであった。
玉菜ぐるま (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
が、その時、どうしたはずみか、熊ん蜂の大きな図体ずうたいが、急に丸まつたと思うと、それこそ、木の実が落ちるように、ポタリと地面にころげ落ちた。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
そしてKは、いつもと同じように、不必要に深く彼女の大きな図体ずうたいに食いこんでいるエプロンのひもを、見下ろした。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
大きな図体ずうたいで、おとなしく、いつまでも黙ってそうさせているので、とうとう私は彼女のふんを踏んづけてしまう。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「手前のような大きな図体ずうたいのやつを預ったうえに、日に一分ずつ払うのだと?……そんな割の悪い話はねえ」
日本へ来て貿易商館を開いてからまだ間もない瑞典スエーデン人で、キャリソン・グスタフという六尺有余の大男がある。図体ずうたいに似合わぬ、途方もない神経質な奴であった。
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
何百万倍も大きな図体ずうたいの彼奴等が躍気やっきとなっている、だから、この小さい俺達一人々々といえどもそれだけの「自負」を持って仕事をして行かなければならないと云った。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「大きな図体ずうたいをしてみっともない。いつまでも泣いていなさんな。さあさあ、皆も早く帰ったり!」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「あの角力も妙な男だよ。立派な図体ずうたいをして、なんでまあああしているのかねえ。まるで権助同様なあつかいで、あのおばさんのことだから、ポンポン言ってらあね。」
最近体重器かんかんにかかりませんが、正月頃用件で郷里の広島に帰った時には二十三貫ありました、図体ずうたいばかりで恥かしい次第ですよ、と赤瀬が云うのに、いや、羨しいことです
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「猫八さん!」かの女はその太った図体ずうたいを自慢そうに前の方へ運ばせながら、行き違いに、止せばいいのに、こちらへ、その図体にも似合わぬ優しい声をかけた、「今、お帰り?」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
すると不意に「キャン、キャン。」というただならぬメリーの悲鳴がきこえた。びっくりして見ると、一匹の図体ずうたいの大きな赤毛の犬が、逃げるメリーを追いまわしているのである。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
図体ずうたいばかり大きくて、胆っ玉の小さいかたばかりですね。死んだっていいから、私たちはあの箱をけてみます。すみませんがその嚢を貸して下さいな、クロスリーさんのおかみさん。
槍ヶ岳の洞窟には、狼岩を離れて来た『最上』が、大きな図体ずうたいを入れている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
たちまち、けんけんごうごう、二匹は一つの手毬てまりみたいになって、格闘した。赤毛は、ポチの倍ほども大きい図体ずうたいをしていたが、だめであった。ほどなく、きゃんきゃん悲鳴を挙げて敗退した。
ところが図体ずうたいの大きい牛馬に飲ませるとなるとトテモ少々では利かないから獣医の処に在る吐酒石酸の瓶は相当に大きいのが用意して在る。ちょうど内科医の処に在る酒石酸の瓶ぐらいあるんだ。
無系統虎列剌 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
露路まで急いで歩いて来たところが、そういう道々を相前後して、片耳の大きな図体ずうたいの男が、泣くような声を響かせて、「お妻さんお妻さん」と呼んでいるので、なんだか不思議な気持ちもしたし
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
動く島は、すっかり水びたしになり、おまけにあの大きな図体ずうたいが四つぐらいにわれて、海の底にしずんでいったのです。
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すねた顔色つらつき、ふてた図体ずうたい、そして、身軽な旅人の笠捌かささばきで、出女の中を伸歩行のしあるく、白徒しれものの不敵らしさ。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひい、ふう、みい……まるで暗闇坂くらやみざかでひとつ眼小僧にでもあったときのよう、大きな図体ずうたいをしたふたりが、わあッ、と声をあげながら一目散いちもくさんに居酒屋から逃げだした。
すべての樹木は、荒れ狂い、取り乱した図体ずうたいを折り重ねる。その奥には、つぶらな眼と、白いくちばしに満たされた幾多の巣があるであろうと、にんじんは想像する。こずえが沈む。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ぶつくさ不平をいいながらも、近付いて来たのを見ると、一人は、人相のあまりよくない図体ずうたいの大きな支那人で、渋紙のような顔に、あぶらが、気持の悪いほどぎらぎらと浮いていた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
図体ずうたいが大きいから、あるいは二つ多いのかもしれない。したがって腕力も強い。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
五尺六寸四分のでか図体ずうたいをして、鬼をもひしがんばかりの獰猛どうもうな人相をしているくせに、カミナリが怖いなぞと、バカばかりほざいているわけなのであるが、しかし自分ではそう思いながらも
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
大きな図体ずうたいの男、それは戸波博士の用心棒だった筈の山名山太郎であった。「先生は、大丈夫でしょうな」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それを大袈裟おおげさに礼を言って、きまりを悪がらせた上に、姿とは何事です。幽霊ゆうれいじゃあるまいし、心持こころもちを悪くする姿というがありますか。図体ずうたいとか、さまとかいうものですよ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にんじんは、口をつぐませるために、それを打とうとでもするように、そっと玉網のさおを引き上げると、これはまた、あしの繁みから、大きな図体ずうたいをした蝲蛄ざりがにがいくつとなく現われてくる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
図体ずうたいは昔から大きかったです」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ピート一等兵は、大きな図体ずうたいを、小さく縮めながら、失心したようになって、床を見つめている。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで、おわびに、一つ貴女の顔をあたらして頂きやしょう。いえ、自慢じゃありませんがね、昨夜ゆうべッから申す通り、野郎図体ずうたいは不器用でも、勝奴かつやっこぐらいにゃたしかに使えます。剃刀かみそりを持たしちゃたしかです。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水牛すいぎゅうのように大きな図体ずうたいをもった艦長の胸のなかを、一センチほど、りひらいてみたかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それでいてあの大きな図体ずうたいをもった市街電車もいなければ、バスもいない。
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)