加之しかも)” の例文
とは云え気候は極わめて熱く、悪疫四方に流行し、加之しかも土人は兇悪惨暴、その上陸地は山ばかりで、取り処の無い島とも云えましょう。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
竪川は是の如き天神川横川等を貫きて加之しかも隅田川と中川とを連結することなれば、他日この川沿岸一帯は工場相隣りするの地となるべし。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
然し血気の怒にまかする巳代吉の勢鋭く、親分は右の手首を打折うちおられ、加之しかも棒に出て居た釘で右手の肉をかきかれ、大分の痛手いたでを負うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
日の暮に平潟ひらがたの宿に歸つた。湯はぬるく、便所はむさく、魚はあたらしいが料理がまづくて腥く、水を飮まうとすれば潟臭かたくさく、加之しかも夥しい蚊が眞黒にたかる。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
その頃の湯風呂には、旧式の石榴口じゃくろぐちというものがあって、夜などは湯烟ゆげ濛々もうもうとして内は真暗まっくら加之しかもその風呂が高く出来ているので、男女なんにょともに中途の蹈段を登って這入はいる。
思い出草 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
現在げんざいおいては、九しう、四こくから、陸前りくぜん陸奧りくおく出羽でばはうまでけて三十五ヶこくわた發見はつけんされてるので、加之しかも横穴よこあなは一ヶしよ群在ぐんざいするれいおほいのだから、あなすうさんしたら
礼讃の正反対たる撃退目的の痛棒をクラワシてやるのである、論難の無遠慮にして切実、観察の徹底的にして明敏、加之しかも、簡潔の警句、犀利の妙文を以て自ら誇る著者が、五日間
そりやうですけれども、うちにゐらツしツて見れば、豈夫まさかお先へ戴くことも出來ないぢやありませんか。加之しかもビフテキを燒かせてあるのですから、あつたかうち召喫めしあがツて頂戴な。ね、貴方あなた
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
加之しかも品格がさがる様な感じ致候。高見如何いかが。虚子、露月が俳人に重ぜらるるは俳道に深きがため、その秋風たると春風たるとに関係なき也。天下の人が虚子、露月を知らんとするは句の上にあり。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
加之しかも眼胞は腫れて視る事を妨げ、口鼻より小虫はるありて、為めに呼吸は困難となり、耳内にも入りて耳鳴するのみならず、脳に感じて頭痛あるを忍ぶも、眩暈めまいを起して卒倒せんとするを以て
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
小丘おかの下に、加之しかも向かい合って立っていることで、これが普通の仲でしたら、お互に寂しいのが媒介なかだちとなって却って親しくなるのですけれど
死の復讐 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
就中なかんずく彼の家は此新部落の最南端に一つ飛び離れて、直ぐ東隣は墓地、生きた隣は背戸せどの方へ唯一軒、加之しかも小一丁からある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
加之しかも月の上る頃はこのあたりにては潮のさし来る勢最も盛なる時なれば、東京広しといへども仲秋の月見にはこのあたりに上越したる好き地あるべくもあらず。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
御維新後四十五年、帝都ていとはなるゝ唯三里、加之しかも二十歳の若い女に、まだ斯様な葛天氏かつてんし無懐氏の民が居ると思えば、イワン王国の創立者も中々心強い訳だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さて、それほどの剣技を持ち、加之しかも忍術の達人たる彼九郎右衛門は其壮年時代を——特に海上雄飛時代を、どんな有様で暮らしたろう? それこそまことに聞物である。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
幅はのみひろからぬ川ながら、船の往来のいと多くして、前船後船舳艫じくろふくみ船舷相摩するばかりなるは、川筋繁華の地に当りて加之しかも遠く牛込の揚場まで船を通ずべきを以てなり。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
(三)宮中の扉は総て閉ざされ加之しかも鍵さえ掛かっていたのに何処から喇嘛は逃げたのであろう?
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
然し恵心は如何にも謙虚の徳と自信のそうとの相対的にあった人で、加之しかも毫毛ごうまつの末までも物事を曖昧あいまいにして置くことの嫌いなような性格だったと概解しても差支無いかと考えられる。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは一月の加之しかも七日で七草の日でありましたので町は何んとなく賑かでした。南国のことでありますから一月と云っても雪などは無く、海の潮も紫立ち潮風も暖いくらいです。
天草四郎の妖術 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人をして山に對してなつかしいやはらかな感じをもたしむる所以で、それが加之しかも清らかに澄みきつた萬頃ばんけいの水の上にノッシリと臨んでゐるところは、水晶盤上に緑玉をうづたかうすとでもいひたい氣がする。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ところが雑踏の浅草境内の加之しかも真昼間往来中でこの掛声が掛かったのです。そうして何んと不思議な事には、いまし方迄歩いていた編笠を冠った其侍の姿が、見えなくなったではありませんか。
赤格子九郎右衛門 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)