兼吉かねきち)” の例文
ふたりは、ひっしと花前の両手を片手かたてずつとらえてはなさない。ふたりはとうとう花前を主人のまえに引きすえてうったえる。兼吉かねきち
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
丸井は火鉢の上に身をかがめつゝ「ぢや、先生、其の兼吉かねきちと云ふのは、恋のかなはぬ意趣晴らしツてわけでは無かつたんでげすナ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
店の大戸を下ろしてしまってから、ホトホトと叩く者があるので、そこに居た小僧の兼吉かねきちが、何の気もなく臆病窓を開けてヒョイと覗くと——
「いえ、ですからね、あの兼吉かねきちに二俵、道之助に七斗、半四郎に五俵二斗——都合、三口合わせて三石七斗は容赦すると言っているんですよ。」
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朝飯あさめし午餉ひるめしとを一つに片付けたる兼吉かねきちが、浴衣ゆかた脱捨てて引つ掛くる衣はこんにあめ入の明石あかし唐繻子とうじゅすの丸帯うるささうにおわり、何処どこかけんのある顔のまゆしかめて
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いえ、全くのはなし、あの商売をのれんでと、雇い人ごと買い取りましたときに兼吉かねきちという一番番頭が申しますには、これこれこれこれのお顧客とくいさまへ貸しになっている。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それから一時間ほどして、銀太郎は九本松の兼吉かねきちの舟に助けられて家へ帰ったのである。
お繁 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつも少年ながら父親の向鎚むこうづちをうっている兼吉かねきちは、親ゆずりの忠君愛国の精神にもえ、少年団の先頭にたって、西へ東へと、教えられた通り、定められた街灯を消してまわっていた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
男「お屋敷か、あゝ此の間兼吉かねきちが往ったっけのう、おなお、それ竹ヶ崎の南山みなみやまでなア」
「ナニ……兼吉かねきちが貴様を毒殺しようとした?……」
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
兼吉かねきち五郎ごろうは、かわりがわり技師と花前とのぶりをやって人を笑わせた。細君が花前を気味きみわるがるのも、まったくそのころからえた。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
篠田の寂しき台所の火鉢にりて、首打ち垂れたる兼吉かねきち老母はゝは、いまだ罪も定まらで牢獄に呻吟しんぎんする我が愛児の上をや気遣きづかふらん、折柄誰やらんおとなふ声に
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
小僧の兼吉かねきちを伝法院の門前まで走らせると、平次の予言した通り、易者の観相院は三日前から顔を見せないという話、近江屋夫婦も今さら呆気あっけに取られましたが、その代り
エヽこれうがす、ナニ一りやうだとえ大層たいそう安いね、おもらまうしきやせう、小僧こぞうさんまた木挽町こびきちやうはうへでもお使つかひたらおんなせえ、わつし歌舞伎座附かぶきざつき茶屋ちやや武田屋たけだや兼吉かねきちてえもんです
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ああ、鍛冶屋かじやのおじさんだ、兼吉かねきち君のお父さんだッ」
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
兼吉かねきち五郎ごろうあらいものをしている。花前はなまえれい毅然きぜんたる態度たいど技師ぎし先生のまえにでた。技師はむろん主人と見たので、いささかていねいに用むきをだんずる。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
藤「わたしの大嗜な……兼吉かねきちという百姓かい」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)