假聲こわいろ)” の例文
新字:仮声
無常因果と、世にもたはけたる乞食坊主のえせ假聲こわいろ、武士がどの口もて言ひ得ることばぞ。弓矢とる身に何の無常、何の因果。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
だよう、おとつゝあになぐられつから、おとつゝあ勘辨かんべんしてくろよう」と歔欷すゝりなくやうな假聲こわいろさらきこえた。惘然ばうぜんとしてすべてがどよめいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「天下の文章、不良少年の手に落つ。」私は、中田博士の假聲こわいろを使つて、二三度呟いた。博士の心にあつた不良少年團の名簿には私の名前も黒い字で記されてゐたに違ひない。
昔の西片町の人 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
それから當分たうぶんあひだは、御免ごめんくださいましだの、何方どちらかららつしやいましたのとさかん挨拶あいさつ言葉ことば交換かうくわんされてゐた。其間そのあひだにはちりん/\と電話でんわ假聲こわいろまじつた。すべてが宗助そうすけには陽氣やうきめづらしくきこえた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
彼等かれらには饂飩うどんおほきなざると二升樽しようだるとそれから醤油しやうゆ容器いれものである麥酒罎ビールびんとがげられた。垣根かきねそととき彼等かれら假聲こわいろしてどつとはやてゝまたはやした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「おゝてえまあ」群集ぐんしふなかから假聲こわいろでいつた。をどりれつ先刻さつきからくづれてごと勘次かんじとおつぎの周圍まはりあつまつたのである。おつぎはこのこゑくとともみだけた衣物きものあはつくろうた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)