のぶ)” の例文
のぶは細身ないつもは蒼白い顔で頼りない寂しい風をしていたが、何かの機会には情熱に燃えて美しく頬を染め出す女であった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
あゝ心持こゝろもちださつぱりしたおまへ承知しようちをしてくれゝばう千人力にんりきだ、のぶさんありがたうとつねやさしき言葉ことばいでるものなり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
猪之助という名だが鼻が大きいので、鼻猪之——ひどく気の荒い本性からの無頼気質やくざかたぎであったが、おのぶという娘が一人ある。
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それでも因幡守とお早と女中二人、あわせて四人の死骸を探り当てましたが、娘のお春と女中のおのぶ、この二人のゆくえは知れませんでした。
三番目のおのぶは、十五、六か、まだ、至ってあどけない小娘で、これは少し丸顔、兄の丈八郎の方に似ている顔だ。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其時許りは弟も非常に悦んだらしいけど、「のぶやお上り?」と聞いた母に、只うんと二三度うなずいた丈けで、力ない目にじっと洋食の皿をみつめたまま
梟啼く (新字新仮名) / 杉田久女(著)
「十七日。(二月。)雨。夕晴。慧璘童女ゑりんどうによ七回忌、得悟童子来廿八日三回忌之処取越、法事執行、今日迨夜たいや也。大賢尼来読経。」按ずるに慧璘は棠軒の女のぶ法諡はふしである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
佐渡屋の妹娘のおのぶといふ十四になるのと、手代の直次郎とおひの與之助の三人、女主人のお兼は、すぐ助けられて大したこともなく、娘のお絹はくひか何んかで肩を打ちましたが
「本家は大坂安土町」「のぶ山家伝の千金丹」「そのまた薬の効能は」「たんせき溜飲食あたり」と面白くもない文句のかけあい、それが妙にぴたりときて我々もよく真似たくらい
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
名古屋の客に呼ばれて……おのぶ——ええ、さっき私たち出しなに駒下駄を揃えた、あの銀杏返いちょうがえしの、内のあの女中ですわ——二階廊下を通りがかりにね、(おい、ねえさんか、湯を一杯。)……
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると老僧は馬場金之助の妻おのぶの墓のあるべきはずはない。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
今、奥さんと一緒に帰つて来たのぶといふ若い女中である。
花問答 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
物いへば眼口にうるさき蚊を払ひて竹村しげき龍華寺の庭先から信如が部屋へのそりのそりと、のぶさん居るかと顔を出しぬ。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
のぶは体を方々いたがった。母がま夜中に、このあわれな神経のたかぶった病児の寝付かぬのを静かになでつつ
梟啼く (新字新仮名) / 杉田久女(著)
自分で卑下する心から、気がひがんで、あなたの顔が憎らしかった。あなたも私が憎いのね。——ああ、のぶや(女中)二階で手が鳴る。——虫がうるさい。このを消して、隣室となりのをけておくれな。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おや、のぶちやんは此處に居たのか」
やゝ餘炎ほとぼりのさめたるころのぶさんおまへはらつからないけれどとき拍子ひようしだから堪忍かんにんしていてんな、れもおまへ正太しようた明巣あきすとはるまいではいか
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「それ二人とも水をおあげ」と母が出した末期の水を、夢中でのぶの唇にしめしてやった。
梟啼く (新字新仮名) / 杉田久女(著)
のぶさんうした鼻緒はなをつたのか、其姿そのなりどうだ、ッともいなと不意ふいこゑくるもののあり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我れは一足はやくて道端にめづらしき花などを見つくれば、おくれし信如を待合して、これこんなうつくしい花が咲てあるに、枝が高くてわたしには折れぬ、のぶさんはせいが高ければお手が届きましよ
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
のぶさんかへ、と受けて、嫌やな坊主つたら無い、きつと筆か何か買ひに来たのだけれど、私たちが居るものだから立聞きをして帰つたのであらう、意地悪るの、根性まがりの、ひねつこびれの
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)