供人ともびと)” の例文
あまり荘厳しょうごんを極めた建て物に、故知らぬ反感までそそられて、廊を踏み鳴し、柱を叩いて見たりしたものも、その供人ともびとのうちにはあった。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
供人ともびとを添えてお送りいたしますゆえ、吉野へおわたり下さいまし。吉野には御父のみかど、御母の君(准后ノ廉子)、みなおいで遊ばします。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
字が示す如く蓑を入れる箱であって、大名の行列の時に、供人ともびとになう横長い箱である。『我衣わがころも』に「大名ニミノ箱アリ、しからバ陣中ハ、ミノヲもちうト見エタリ」
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
長者はその日が来ると、宇賀の老爺はじめ十余人の供人ともびとれて、伊勢参宮に出かけて往きましたが、土佐の海は風浪ふうろうの恐れがあるので、陸路をとることにしました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
聞出し今日ぞ旦那さまをお助申時なりと大に悦び一つうの願書をしたゝめ天へものぼる心地にて梅ヶはしといふ處に待うけしに聞しにたがはず夜にいると右三人の供人ともびと定紋付ぢやうもんつき箱挑灯はこちやうちんを先に立みち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
担ぎ荷十七供人ともびと六十余人、乗替えの輿は五つというむやみな仕組だった。
ここを襲ったのは解珍かいちん、解宝の二人を先頭に、さきごろ一行の供人ともびとに仕立てて一味の中に入れ共に泊りこんでいた仲間の手下てかたちだったのである。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老宰相と李張は馬に乗って、数人の供人ともびとれて山寺の方へ往った。そして、山のふもとへ着くと、老宰相も李張も馬からおりて、勾配こうばいの急な山路やまじを登って往った。山桜がぽつぽつ咲いていた。
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女駕の御守殿ごしゅでん供人ともびとなど、合点のゆかない行装であるが、父中将の持てあましている万太郎ぎみの日常を知る者には、さほど、目をみはるに足らないことで
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
下向して在府中であった年頭の勅使、広幡ひろはた梅渓うめだにの二きょうが帰った後は、饗応きょうおうの混雑やおびただしい供人ともびとも去って、江戸城がにわかに広くなったような気がしました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、それに答えるいとまもないように、木蔭やていのまわりを、逃げる者と追う者の黒い影がみだれ合っていた。そのうちには、蔵人の供人ともびともまじっているらしかった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや朱同さん。探してもムダだろう。じつはもう一人、てまえが供人ともびとを連れていたから、その供の男が、気をきかして、どこかへ遊びに連れて行ったものとみえる」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
見事な紅葉もみじの枝をゆッさりと上にのせて金鋲青漆きんびょうせいしつ女駕おんなかご供人ともびとは紅白ちりめんの裲襠うちかけ、いずれも、御守殿ごしゅでん風な女ぞろいで、これまた、手に手に紅葉の枝を持っているので
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はや車寄くるまよせには、随身たちがを揃えていた。つねの参内ならずとして、これも殿でん法印ほういんの用心か。屈強くっきょうなのが、供人ともびとの装いで、こぞッて、ながえの両わきにひざまずいている。
と——都合よく、とある屋敷の角から、絢爛けんらんな乗物と供人ともびとが列をなして流れてきた。それがちょうど、出あいがしらであったので、前へゆく編笠の侍が、トンと足を踏み戻した。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴人の風格のある例の小旋風しょうせんぷう柴進さいしんは、衣冠いかん帯剣たいけんの身なりで、九紋龍史進と浪子ろうし燕青えんせいのふたりを供人ともびとに仕立て、大名府の小路こうじの角に、さっきから、かなり長いことたたずんでいた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪の御所内は諸殿しょでんの灯を遠方此方おちこちにちりばめて神々しいばかりである。供人ともびと殿でん法印ほういん以下は、衛府えふを入って、さらに中重なかえノ門までは参入したが、当然、そこからさきへは行かれなかった。
「折もよし、よい供人ともびとがあったもの。夫婦ふたりの身、しかと、たのうだぞ、柳斎」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同夜また、殿でん法印ほういん以下、宮の供人ともびと四十余名は、中重なかえノ門側の一トむねを滝口の兵に包囲されて、ひとり残らずばくされてしまった。彼らは「何が何やらわからん」と吠え狂い、ののしり叫んだ。
三河衆の供人ともびとは、総勢で百二十騎と数えられた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)